10期・59冊目 『精霊幻想記1 偽りの王国』

精霊幻想記 1.偽りの王国 (HJ文庫)

精霊幻想記 1.偽りの王国 (HJ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
スラム街で生きる孤児の少年リオ。彼は七歳の時に突然、自分がかつて日本の大学生“天川春人”であったことを思い出し、剣と魔法の異世界に転生していたのだと気づく。動揺する中、リオは記憶と同時に認識した自身の強大な魔力を行使し、少女誘拐事件の解決に貢献。その功績が評価され、彼は貴族の子どもが集う名門学院に特例で入学することに!?

以前、暇つぶしに読み始めたWeb小説にハマるようになったと書きました。
架空戦記というか歴史系から読み始めたのですが、次第に二次創作や現代もの、果てはファンタジー系にも手を出していますね。
特にファンタジー系は書籍化されている作品が多く出ていますが、購入したのは本作が初めて。*1
いや何というかWeb連載を夢中になって読んでいたら、ちょうど書籍化されることを知り、勢いで買ってしまった感じです。
「精霊幻想記〜こんな世界で出会えた君に〜」


あらすじとしては、地球とは違う世界にあるベルトラム王国首都のスラムの孤児リオが高熱でうなされている時に突然前世の記憶を取り戻した、というより前世の天川春人(日本の大学生でバス事故により死亡)がリオの記憶を共有しつつ主人格となります。昨今人気の転生ものですね。
スラムのボスが誘拐事件の片棒を請け負ったらしいのですが、成り行きでその被害者である王女・フローラを助けます(その際に内なる声の導きによって精霊術覚醒、身体強化により居合わせた暗殺者を倒す)。
で、王女を助けてめでたしめでたしというわけにいかず、警備していた近衛騎士の責任逃れのために一時は拷問を受けて犯人グループの一味とされそうな窮地もあったが何とか脱して、報償として王立学院に入学することになるのでした。


転生ものの定番として、元から古武道の心得があったり神からの祝福を受けたチート能力とか異世界補正として魔力値が異常に高かったりするなどの主人公最強展開*2と、複数ヒロインによるハーレム展開があるらしいです。
本作もある意味そこから外れてはいません。
しかし1巻で書かれる主人公の境遇があまりにも酷過ぎて不憫としか言いようがない。
そもそも前世では初恋の幼馴染とは両親の離婚・引っ越しで引き離されるところからスタート。
再び会う時までにふさわしい男になろうと懸命に努力していたのを認められて、かつての地元の高校に入学して幼馴染を見かけるも、その隣に親しげに話をする男がいたので話しかけられないまま、相手は突然謎の失踪。*3
高校生の身では幼馴染を探すことはろくにできず、生きている意味を見いだせぬまま二十歳で死亡。
転生した先では覚醒前から冒険者の父は早くに亡くなっていて、つつましくも幸せな暮らしは長くは続かず、母親が目の前で殺され全てを奪われてスラムで孤児として生き、復讐を誓って泥水をすするような日々。
王立学院に入学してようやく運が向いてきたかと思いきや貴族ばかりの中でぼっち生活。
6年時の集団訓練でまたしてもフローラを救うも、貴族子弟の責任逃れのために逆に王女殺人未遂の罪に問われてしまうというオチつき。まさに恩を仇で返されるを地でいってる。
そんな中で救いは魔術の天才児として飛び級で卒業、十代で講師として勤めるセリア先生の存在でしょう。
助けたはずのフローラとその姉クリスティーナからなんのフォローも無い(できない)だけに、教師と生徒以上に親密な関係となってほっこりします。
結局セリア先生とも別れて逃亡せざるを得ないのですが。
いろいろと前途多難な主人公リオ(春人)ですが、今後の活躍に期待ってところです。


ところで書籍化に伴って大幅に加筆修正がされているようで、主に女性陣絡みの箇所が目につきました。
本作の良いところとして心理描写が巧みなので全体的に暗い展開でも鬱になることもなく読めるのですが、加筆修正によってストーリーが補われている分、長所がやや損なわれてしまった気がしないでもないです。
これから旅が始まって、主人公周りに新しいキャラクターが続々と登場して刺激が増えていくのですが、Web連載版を知らず本書だけを読んだ人だと辛い評価になるかもですね。

*1:『ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり』は購入したが、Web連載時はまだ知らなくて、著者繋がりで知った

*2:中には最弱スタートからの巻き返しパターンの作品もある

*3:後で再会するけどそこでもすんなりいかないのである