6期・47冊目 『ミッドウェイの刺客』

ミッドウェイの刺客

ミッドウェイの刺客

内容(「MARC」データベースより)
空母ヨークタウンを撃沈せよ! 1942年6月、ミッドウェイ海戦。日本の機動部隊は、太平洋戦争における致命的な敗退を喫しつつあった。伝説の海軍潜水艦・伊168。田辺弥八艦長率いる67人の男たちの熱き戦いを描く。

日本軍の大敗に終わったミッドウェイ海戦にて、唯一の戦果とも言えるのが最後に生き残った空母・飛龍によるヨークタウン撃破ですが、米軍によってなんとか生き延びさせようとさせているところにとどめを刺したのが伊168による雷撃。
その軌跡を艦長始め潜水艦乗組員の視点からのみ描いたのが本作品になります。


先の作戦では電池故障による出撃失敗と、乗組員の1/3が新兵という不安要素を抱えて決して順調とは言えない出だし。
そこを田辺艦長は往路での猛訓練によって錬度を上げ、隠し事無しに積極的に腹を割って話そうとする姿勢によって人心を掴もうとしています。
海軍総出によるミッドウェイ攻略という大きな作戦に参加するも、伊168自身は作戦区域の偵察という地味な任務に甘んじなければならないところに生じる不満から士気を保つ苦労が垣間見えます。*1


敵地に入ってからは、ひたすら敵に発見されないように目的地に近づく。決して派手な戦闘シーンなどなく、慎重かつ忍耐強くという潜水艦の戦い方がじっくり描かれています。。
幹部との作戦を巡る議論や重く危険な魚雷の装填作業、厨房で作られる戦闘食。そして水中という3次元の空間にて知恵を絞って敵艦の爆雷攻撃を凌ぐ場面。
艦長の一瞬の判断ミスが乗組員全員の命取りになるという緊迫した戦闘シーンや狭い潜水艦内にて任務に精勤する乗組員一人一人の動作にまでデテールにこだわって書かれています。
デビュー作『雷撃深度一九・五』で見せた潜水艦内での息詰まる戦闘描写は健在。それでいて『雷撃深度〜』の時のような過剰な演出は控えめなのが好印象でした。
まぁ戦後では周知のミッドウェイ海戦の結果を出撃前から田辺艦長が見通しているような描写はちょっとやりすぎかとは思いますが、山場でのヨークタウン雷撃前後における冷静沈着な判断、そして人事を尽くした上で僥倖に見舞われるあたり、戦果を挙げて生還した艦長はやはり違うなと思わせるものですね。

*1:そもそも潜水艦を決戦思想に組み入れていたところが日本海軍の失敗の一つでもあるのだけれど