8期・53冊目 『葉桜の季節に君を想うということ』

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

※ある程度ネタばれあります。


主人公・成瀬将虎は探偵事務所で働いていた経験あり、今では警備員やパソコン教室の講師も務める「何でも屋」ならぬ自称「何でもやってやろう屋」。
通っているフィットネスクラブで出身校の後輩であるキヨシに頼まれて白金台の高級住宅街に住むお嬢様・久高愛子との橋渡しをするのだけど、今度は愛子からの依頼で交通事故死した当主・について調べることに。
生前、悪徳商法業者・蓬莱倶楽部に騙されて巨額をつぎこんでいたことや、死の直前に生命保険に加入していたことなどからその死に疑問を抱き、内部事情をつかもうとします。
そんな折に将虎は駅のホームで自殺を図った女性・麻宮さくらを助けたことをきっかけに付き合いが始まります。
現代において蓬莱倶楽部を探る将虎の章。
麻宮さくらとの会話から始まる、かつて高校卒業後の将虎が憧れの探偵事務所に入ったものの、実際は不倫などの身辺調査が主という現実を知り、初めて任された仕事がスパイとして暴力団に入って内情を探っていたという過去の章。
一方で蓬莱倶楽部に騙されて莫大な借金を抱え込んだ挙句に今度は詐欺の片棒を担がされることになった古屋節子の章。
と3つの視点から物語が進んでいくわけです。


いわゆるどんでん返しものです。
年齢が明らかにされているのは将虎の過去(19歳)と節子(二人の成人した息子がいる母親)の章のみ。
現代の章での印象で将虎は20代半ば〜後半くらい、キヨシは未成年か。そうするとさくらと愛子も同様の年齢と勝手に推定してしまったところが落とし穴。
終盤の種明かしで見事に作者の術中にはまってしまったことがわかりました。
考えてみれば、過去の章で戦後間もない頃の話が出てくるあたり、伏線があったわけですが。


過去の章での殺人事件の謎については見事な解決だし、身近な人を失くしたことが将虎に影を落としているのはわかります。
将虎が歳を取っても若い頃と同じ情熱と行動力を持つことはできると熱弁していて、それはわかるのですが、性的なシーンで実は70代のおじいちゃん・おばあちゃんだったと知ると何とも言えない気持ちになってしまいますね…。
まぁ老人ホームでも恋愛関係があるとは聞きますから無くはないのでしょうけど。
あと愛子が”夫のために”蓬莱倶楽部に突撃しようとしていたという事情がネタばれ後の辻褄合わせとしては唐突過ぎる気がしましたね。
タイトルからして切ない恋愛もののイメージがありましたが、主要な人物が実はみな70代だったという予想外の展開でびっくりしたのは確か。
十年前の小説ですが、今後の高齢化社会を思うと確実に時代を先取りしていると言えましょう。