4期・20冊目 『さよならダイノサウルス』

さよならダイノサウルス (ハヤカワ文庫SF)

さよならダイノサウルス (ハヤカワ文庫SF)

内容(「BOOK」データベースより)
恐竜はなぜ滅んだのか?この究極の謎を解明するために、二人の古生物学者がタイムマシンで六千五百万年のかなた、白亜紀末期へ赴いた。だが、着いた早々出くわしたのは、なんと言葉をしゃべる恐竜!どうやら恐竜の脳内に寄生するゼリー状の生物が言葉を発しているらしいのだが、まさかそれが「***」だとは…!?次次に披露される奇抜なアイデア、先の読めない展開。実力派作家が描く、心躍るアドベンチャーSF

この内容について説明しながら感想を述べようとするとネタばれになってしまうし、触れずに書こうとすると何を言ってんだがわからない文章になりそうだし悩ましいところ。ともかく奇想天外な発想と劇的な結末がすごい。
白亜紀にタイムスリップして早々に恐竜に襲われるというハードな展開かと思ったら「まってよう」と喋りながら追いかけてくる小型恐竜・トロオドン。なんなのだこれは?
別に恐竜が知性と言語を持っていたわけではなく*1、その秘密は恐竜の脳内に寄生するゼリー状の生物らしいのです。


もともと恐竜たちが突如滅んだ理由を探りに来た研究者二人―ブランドン・サッカレー(通称ブランディ)教授とマイルズ・ジョーダン教授(通称クリックス)―だったが、ファーストコンタクト以来ちょくちょくやってきては質問を投げかける(ゼリーに支配された)恐竜にとまどう二人。まさか人類誕生のはるか昔の時代に会話できる生物がいるとは思いませんよねぇ。*2
この事態に、彼らを現代に持ち帰ろうなどと楽観的な思考をするクリックスに対して、慎重派のブランディとで意見は割れる。そのあたりシリアスさはあれども、トロオドンの子供口調と仕草にはギャグを感じるしかないのです。
また、月がなぜか二つあったり、重力が半分になっていたりとあまりに想定と違うすぎる世界がさりげなく書かれているのですが、これが実は終盤に重要なポイントとなるんですね。
そして後半にゼリー状の生物の正体と目的が明かされるに連れて、荒唐無稽かと思われた展開が今度は緊迫感溢れるストーリーとなっていき、恐竜絶滅への謎へと結びついていき、あっと驚かされます。


並行してもう一つの世界らしき物語も挟まれているのが奇妙でもあります。そこではブランディの記憶に無い自身の日記が忽然として現れ、そこでは白亜紀にタイムスリップしたことになっている(つまりもう一つの本編)。
疑問に思った彼は日記の中でタイムマシンを発明したはずのファン博士(しかし現実には不幸な事件によって研究意欲を失い発明はされていない)に会い、その謎を追う展開となっています。
最終的に主人公のプライベートな問題から生命の起源にまるわる謎やタイムパラドックスまでも網羅して見事に収斂させた著者の手管に舌を巻かざるを得ないのでした。

*1:トロオドン自体は現世のエミューに匹敵する程の脳容量を持っていた事が想定されていると記述にある。この恐竜の詳細な研究から、“恐竜が絶滅しなかった仮想的未来”の知的生物として「恐竜人間」ディノサウロイドが1982年に発表された。そこから翻訳タイトルのダイノサウルスが来たのかと想像。また豊田有恒に「ダイノサウルス作戦」という作品(絶版・未読)があって、関係がある内容らしい

*2:普段は不信心なブランディが落ち込んだ時に神に祈ろうとしたら、まだイエス・キリストが生まれていないことに気づくあたりはブラックジョーク