6期・72冊目 『かたみ歌』

かたみ歌

かたみ歌

内容(「BOOK」データベースより)
忘れてしまってはいませんか?あの日、あの場所、あの人の、かけがえのない思い出を。東京・下町にあるアカシア商店街。ある時はラーメン屋の前で、またあるときは古本屋の片隅で―。ちょっと不思議な出来事が、傷ついた人々の心を優しく包んでいく。懐かしいメロディと共に、ノスタルジックに展開する七つの奇蹟の物語。

以下、収録作品
「紫陽花のころ」
「夏の落し文」
「栞の恋」
「おんなごころ」
「ひかり猫」
「朱鷺色の兆」
「枯葉の天使」
舞台は昭和40年代前半の東京の下町。アカシア商店街を中心とした町並みは運良く戦災を逃れ、戦前からの古びた雰囲気が色濃く残っている。近くの住宅街にある覚智寺には、この世とあの世を繋ぐと噂があるせいか、不思議な出来事に遭遇する人が後を絶たないと言う。
生死に捉われない不思議な出来事に遭遇した人たちによる幾分ホラーじみた内容の連作短編集ですが、読後感としては怖さよりもどこか暖かさや切なさの方が残ります。
それは生死を問わず登場人物の想いや、全体的に漂う昭和の郷愁感*1がそうさせるのかもしれない。
「夏の落し文」*2や「朱鷺色の兆」*3のようにダイレクトに死を扱っている作品が多くて、書きようによってはいくらでも恐怖を感じさせる内容に仕立てられるでしょうけど、最後にほろりとさせられる結末が待っているのです。
各話はそれぞれちょっとした人と場所の繋がりがあるのですが、中でも全編通じて登場するのが幸子書房という古書店
その主人の秘密が最後の「枯葉の天使」にて明かされます。
妻を若くして自殺させてしまった過去を責め続けてきた主人。一目妻に会いたくて毎日覚智寺に通うも願いが叶うことはなかった。そこにあの世から使いとして現れたのが「おんなごころ」*4にて心中に巻き込まれて死んでしまった女の子だったというのが泣かせますね。


実は2010年10月に放映されたフジテレビ系ドラマ「世にも奇妙な物語20周年スペシャル・秋〜人気作家競演編〜」*5の「栞の恋」(主演:堀北真希)を見て随分印象に残っていたのですね。
http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/pub_2010/100909-i011.html
ついこのあいだ図書館で見かけて原作を読むことができました。
父が亡くなり母が倒れて家業(酒屋)に忙しい邦子は恋愛には程遠い毎日。その唯一の楽しみが当時人気絶頂だったタイガースで、彼女のお気に入りは長身のサリー。
そのサリーに似た学生を見かけて以来、彼を想う邦子は幸子書房にて立ち読みをする姿を見かけてこっそりと近づく。彼の読んでいた本を手に取ると「Y.T」とイニシャルらしき文字が書かれた栞がはさんであることに気づく・・・。
栞による文の交換という、今じゃ考えられないくらいもどかしいけど切ない、そして実は不思議なオチが待っている悲恋物語です。
ちなみにドラマではタイガースのサリー本人である岸部一徳が幸子書房の主人として出演しているのが憎い演出でした。

*1:まだ自分が生まれる前だけど

*2:名指しで死を告げるビラを貼られた少年の話

*3:主人公にだけ朱鷺色の持ち物を持つ人は死期が近いことがわかってしまう

*4:ギャンブル狂いのダメ夫と別れられない女。やがて男が事故死するが女はそれを認めず…

*5:もともとは宮部みゆき『燔祭』が気になって見ようとしたのだけどね