10期・27冊目 『そして粛清の扉を』

そして粛清の扉を (新潮文庫)

そして粛清の扉を (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
卒業式を翌日に控えた高校で、突如として発生した学校ジャック事件。武器を手に、生徒を人質にとったのは、普段は目立たない中年女性教諭だった。彼女の周到に練られた計画と驚くべき戦闘力は、対峙した警視庁捜査第1課の精鋭「特警班」さえをも翻弄する。焦燥し、混乱する警察、保護者を前に、一人また一人と犠牲者が…。第一回ホラーサスペンス大賞を受賞した衝撃の問題作。

校舎が無数の落書きで覆われ、いかにも荒れ果てた宝厳高校。
その中でも3年D組は特に始末に負えない生徒ばかりが集められたクラスだった。
卒業式を翌日に迎えて珍しく生徒が全員揃ったその日、今まで目立たなく地味な中年女性教諭の担任・近藤亜矢子が普段とは違う様子で話しかけた。
「皆さん、明日の卒業式には、果たして何人が出席出来るでしょうか?……それは、これからの24時間で決まります」
「あなた達は、人質なのです」
それが学校、保護者はもちろん、警察を翻弄し、テレビ放送によって全国の視聴者をも巻き込んだ凄惨な立て籠もり事件の始まりだったのでした。


銃器をもっての教室立て籠もりといえばスティーブン・キングの『ハイスクールパニック』を思い出します。
そちらはアメリカにおける校内発砲事件を元になったものの、どちらも生徒である犯人と人質の間に奇妙な一体感があったのに対し、本作はいわば大人(親)の立場による無軌道な未成年に対する断罪がメインとなっているのが大きな違いでしょう。
いざ立て籠もりが始まると、武器(拳銃とサバイバルナイフ)だけでなく、接近を防ぐため監視カメラや植え込みの地雷、そして教室には爆弾が仕掛けられていることを匂わせる。
いつの間にか格闘術まで会得していて、逆襲に転じた男子生徒をいともあっさり始末するなど、この日のために時間をかけて周到な準備をしていたことがわかります。
更に人質を盾に警察だけでなくテレビ局にまで独自に交渉して、放送を利用して優位に立つことに成功。
警察でなくとも彼女一人の単独犯ではなく、共犯がいるのではないかと思わせますね。
一方で生徒一人一人の犯した罪を具体的に把握し晒した上で、着実に処刑してゆく。
過去に唯一の肉親である娘を暴走バイクによって殺された恨みがあることがわかるのですが、今回の立て籠もり事件に何らかの関係があるのか、事件の行方だけでなく、いやでも彼女の本意が気になってしまうのです。


特殊班を投入した警察の上をいく犯人の行動、教室内での殺(や)るか殺られるか緊張感、そういったスピーディーな展開には惹き込ませるものがあります。
殺されていく生徒の罪状が読みあげられることで彼らがあまりに利己的で人間のクズであり、人によっては爽快感を覚えるのかもしれませんが、やけに反社会的な若者観として強調しているのは違和感がありました。
まぁ未成年加害者に甘く、被害者に風当りの強い風潮*1に対する抗議としては同意しますが。
上の世代にとって若者が理解しにくいのはいつの時代でも同じじゃないでしょうか。
だとしても理解しにくい理由を彼らにだけ押し付けるには無理があるでしょう。
せめてこの中の生徒たちが犯罪に走ったことを現代ならでの事情を絡めてもっと掘り下げてくれたら物語として完成度が高まったのではないかと思います。

*1:それも変わりつつあるが