- 作者: 戸梶圭太
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2000/10
- メディア: 文庫
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赤い雨が降った日を境に、いじめ、やくざ、詐欺商法などに泣き寝入りしていた市井の人による「私刑」ともいえる残虐な暴力事件が激増。私刑はエスカレート、遂に未成年犯罪者がテレビカメラの前で無惨に処刑され、日本中が狂喜する。穏やかな生活を望む主婦、志穂は、嬉々として私刑に参加する夫に怯え逃亡を謀るが―。大興奮のパニックホラー。
ある日、日本中をすっぽり覆った雨雲から赤い雨が降った。
その日を境に今までいじめっ子ややくざ、犯罪者、街の不良など、恫喝や暴力によって弱者を踏みにじっていた者たちが、思わぬ反抗を受けて手酷く報復を受けるようになります。
その担い手は普通のサラリーマンだったり、主婦であったり。一人が声をあげると、次々と賛同する者が現れ、警察でさえ完全な味方。
しまいには立て籠もり事件を起こした犯人がテレビカメラの前で堂々と処刑され、全国の視聴者は狂喜するようになってしまったのです。
そんな中で流産で退院したばかりの志穂は優しかった夫を始め、世間が急激に変わってしまったことに戸惑い恐れるのですが…。
理不尽な目に遭っても強く言い返せない。長い物に巻かれる。すぐ謝る。トラブルには見て見ぬふりをする。
そんな現代日本人にありがちな性質が赤い雨によって一変した世の中を描いています。
赤い雨は一度ではなく、降るたびに人々の凶暴性は高まり、ちょっとしたトラブルでも相手に大怪我どころか殺すことさえ厭わなくなってしまう。
特に変質者に怯えていた女子中学生が終盤になると、日中堂々と相手を処刑するシーンが象徴的です。もちろん大人たちと共にだけど、彼女が赤い雨の影響をもろに受けて高揚していく心理がわかりやすい。
そんなその中で唯一変わることなかった志穂だけが夫やその両親の変貌、そして目まぐるしく変わっていく世間に怯えるのですが、なぜ彼女だけが変わることないのかは一応理由があります。かなりレアケースなので、仲間を見つけることは難しいでしょうが。
作中にて人々の心の中に溜まりに溜まった不満や怒りがマグマが噴火するように爆発したという例えは巧いですね。
日本人は我慢強いけど、一度キレたらとんでもないことをやらかしそうだから、笑えない内容です。
大変興味深い設定だったし、前半は惹きこまれたのですが、後半は志穂がメインとなって面白みが減ってしまった気がしましたね。