12期・43冊目 『閉店時間』

閉店時間 (扶桑社ミステリー ケ 6-9)

閉店時間 (扶桑社ミステリー ケ 6-9)

内容(「BOOK」データベースより)

9.11テロの傷痕残るニューヨーク。街では閉店間際のバーを狙った武装強盗が相次いでいた。バーテンダーのクレアは、恋に破れた哀しみを胸に抱えつつ今日も店に出る。自分を待ちうける運命も知らず…。未練を残して別れた恋人たちを襲う悪夢を描く、ブラム・ストーカー賞受賞の表題作をはじめ、意想外の結末へと読者を導く怒涛のサスペンス「ヒッチハイク」、傑作ノワール・ウエスタン「川を渡って」等、ケッチャム文学の最高峰を示す中篇四本を厳選して収録。加速する狂気に貴方はついていけるか。

一通り代表作は読んだつもりだったジャック・ケッチャム。久しぶりに手に取ったのは珍しい中編集でした。

閉店時間
妻子ある男性・デイヴィットとの不倫にケリをつけるも未練を残したまま、バーテンダーとして働きながら寂しい生活を送るクレア。
閉店ぎりぎりの人がいなくなる時間を狙って連続強盗を成功させ続ける男。
拳銃で脅しながら仕上げにちょっとしたゲームをするのが癖だった。
ある日、閉店時間まで潰れていた酔っ払いを送り出したクレアの店内には一人の男が残っていた。


ヒッチハイク
弁護士ジャネットは帰宅途中に車がガス欠。ちょうど通りがかった車には高校時代の同級生(ただし交流はほとんどなし)マリオンだった。同じ女性ということで安心したのだが、彼女は運転しながら狂気を見せていき、このまま無事に帰れそうになくなってしまった。
さらに間の悪いことに殺人現場を目撃してしまったことで、犯行グループの3人組に無理やり同行させられてしまう。
マリオンは新たな殺人を巻き起こす3人組に嬉々として協力するようになり、人質というよりは共犯者のような立場となっていき、ジャネットに対して男たちをけしかけるようになる。


「雑草」
出会ってしまった二人。シェリーとオーウェン
オーウェンはレイプ願望を抑えきれずに実行に移してしまう。
シェリーはそんな彼の欲望を果たすために嬉々として手伝い、看護師の仕事柄、薬さえ入手して実の妹さえ差し出すほどであった。
しかし殺した女の遺体が発見されてオーウェンは逮捕されて結果的に死刑に処せられるが、シェリーは司法取引によって軽い刑で出所する。
名前を変えて働きだしたシェリーはまた別のレイプ願望を持つ男に接近するが…。


「川を渡って」
開拓時代のアメリカ南部。
メキシコ領土を併呑した一帯ではゴールドラッシュもあって、鉱夫や兵士くずれ、商人を始めとして荒れくれ者の男ども、それに娼婦たちが集う。
若い新聞記者のベルは酒場で途方もない度胸を示したハートに出会い、野生馬を捕まえる仕事を手伝おうようになる。
そんなある日、拉致されていた奴隷館から逃げ出してきたメキシコ人少女と出会って、紆余曲折の末にアジトを急襲して彼女の妹を救出する企てに参加することになる。


無慈悲なる暴力とそれに蹂躙されていく人々を赤裸々に描くことには定評のあるケッチャム。
こうやって、四編収められていると、それぞれに違った趣向があって楽しめます。
長編だとどうしても中だるみすることがあるし、短編では物足りない。中編くらいはちょうどいいのかもしれません。


閉店時間」は9.11テロ事件直後のニューヨークの雰囲気がよく描かれています。
互いに想いを残しながらも別れざるを得なかった不倫男女の心情が描かれて、ひょっとしたらこれはケッチャムらしくない恋愛小説なのかと思ったところで唐突な最後が驚きでした。普通の作家だったら、こんな終わりにしないだろうなぁ(笑)
ある意味二人にとってはハッピーエンドだったのかもしれませんね。
ヒッチハイク」は男三人組のクズっぷりに多少の温度差があったり、それに協力することになったマリオンの毒婦ぶりが描かれているのがなかなか良いです。
男の単純な力だけでなく、ジャネットとマリオンとの憎しみ合いや内心の企みといった要素が物語を盛り上げていきますね。
終盤に犯人たちが潜りこんだのが一種の結界らしくなっている場所らしくて、人種絡みなのか宗教絡みなのかがちょっとわかりづらかったですけど。
「雑草」
こちらも単なるレイプ願望の男に女が出会ってしまったことが大事件へと発展したということで、女性を主人公としたピカレスク小説となっていってよいでしょうか。
人を人と思わない犯罪者はどこにでもいるだろうけど、彼女みたいに徹底しているのはそうはいないんじゃないですかね。生まれた時代と場所によっては悪女として歴史に名を残していたかも。
そして、やっぱり最後は毒を以て毒を制すみたいな。
「川を渡って」
西部開拓時代の荒々しい雰囲気を醸し出していていい感じです。
奴隷館での銃撃シーンにはハラハラドキドキ。日本で言えば幕末の新撰組討ち入りを読んだ時みたいな感じでした。
映像で見たらきっと18禁だらけの凄惨なシーンの連続だけど、読後感は悪くないのは主人公周辺の登場人物の魅力および逞しさを感じるからでしょうか。