7期・39冊目 『薬師寺涼子の怪奇事件簿 魔境の女王陛下』

魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス)

魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス)

内容(「BOOK」データベースより)
「ここは地の涯 シベリア奥地」日本を恐怖に陥れた殺人鬼を大追跡。「どんどん事を大きくして、君にも愉しませてあげるから」と警視庁の史上最強女王・薬師寺涼子警視は部下の泉田らを従え、シベリア出張。犯人が潜伏する秘密都市へと向かった。辿りついた先で見たのは、地獄としか思えぬ驚愕の光景と、世界を震撼させる兇悪な陰謀だった。人智を超えた敵の暴走を止めるべく、涼子は常識を超えた作戦で挑む。

前作から実に5年ぶりに出たシリーズ新作。前作の感想で書いた通り、シリーズ重ねるたびに本筋とは関係ない脱線が増える傾向にあって魅力を減じてはいたのですが、今回も悪い意味で予想は外れなかったですね。


わざわざシベリアくんだりまで出かけて行っていつものメンバー勢揃いとはいえ、人知を超えた存在といえば、科学技術で復活したサーベルタイガーが襲ってくるくらい(怪奇でもなんでもないし)。
なんとなく流れでソ連時代の秘密要塞都市に突入。あっさり明かされる国際的陰謀(笑)
右翼かぶれのエネルギー界の大物やら外交官僚らが登場するのですが、このあたりは単に著者が虚仮にしたいが為に出したとしか思えない。黒幕らしき殺人趣味のやり手詐欺師にしてもサーベルタイガーをけしかけるだけで、一体何がしたかったのか?
悪役としての実績も魅力も不充分ゆえに涼子との対決もパっとしない。泉田にトラブルを引き寄せる役どころの岸田はともかく、涼子のライバル設定である室町由紀子はいったい何のために出てきたんだろう?
本作限定のキャラクターで出色だったのはいろいろ裏があることが匂わされた現地ガイドの「ペトさん」*1くらいでした。「ペトさん」を裏ボスにして、シベリア横断ロシアンマフィアとの大抗争!とかにすれば良かったかも(笑)


5年ぶりに出した理由は、メディアの影響を受けた(しかも悪い方に)著者が昨今の話題に関して単に自らの主張をしたかっただけではないかと勘繰りたくなるほど原発叩き・「放射能まみれ」日本をこきおろしてばかりでうんざり。
去年の東日本大震災の傷跡は未だ深く、現実に苦労されている方々がいるのに、人気シリーズで取り上げるには一方的な表現ばかりだったのが残念でした。こういった節度の無さに対して批判的な方だったと思うのですけどねぇ。
かつて宇宙や遥か時を超えた世界を舞台に読者をいざない魅了してきた著者であったのに、こうしつこく入ってくる政治的な主張・批判は物語を楽しむ妨げにしかなりません。
そういうのは長編シリーズの中じゃなくてエッセイでやってくれと思うのですね。そこまでして続編出してほしいとは思わない。
漫画化もされている関係で大人の事情もあるでしょうが、もうシリーズ打ち切ってもいいんじゃないでしょうか。

*1:本名はアレクサンドル・アレクサンドロヴィッチ・ペトロフスキー