7期・38冊目 『雷の季節の終わりに』

雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに

内容紹介
現世から隠れて存在する異世界・穏(おん)で暮らすみなしごの少年・賢也。穏には、春夏秋冬のほかにもうひとつ、雷季と呼ばれる季節があった――。『夜市』で鮮烈なデビューを飾った著者による、初の長編小説。

世界から隔絶して存在する地域である穏(おん)。
そこでは春夏秋冬のほかにもうひとつ、雷季と呼ばれる雷が荒れ狂う短い季節があり、人々は家で閉じこもって過ごすという。その雷季にある姉弟が離れ離れになり、一人ぼっちになった弟には何かが取り憑いたというプロローグ。
主人公は幼い頃に外界から来たというみなしごの少年・賢也。子のいない夫婦のもとで育てられるが、その境遇ゆえか学校では嫌がらせを受けていた。
しかし同級生の少女・穂高やその兄らと仲良くなったことで次第に明るさを取り戻してゆく。


「風わいわい」という憑きもの、穏の内と外を見張る「闇番」、風葬の場所・墓町、そして処刑を請け負う「鬼衆」等など独特なキャラクターが自然に登場し、その世界観の構築によって読者を引き込ませるのが相変わらず巧いですね。
賢也と穂高との交流に少年期特有の甘酸っぱさを感じる青春ものの雰囲気を漂わせたところで急展開があって潜めていた悪意が牙を剥き、結果的に賢也は穏から出てゆかざるを得なくなります。
一転して現代の日本のどこかで住む中学生・茜が継母に虐待される章が並行して進みます。
大喧嘩の末に家出した茜は人攫いに拉致されて高天原と呼ばれる荒野に連れ去られてしまいます。そこは穏と日本を結ぶところ。
果たして賢也と茜の運命は…?


異界だけでなく現代日本におけるストーリーも交差させていくというのがこの著者としては珍しかったですね。でも賢也や茜を始めとする主なキャラクター(人以外の存在も含め)が少しずつリンクしていくのが気になって、さほど違和感は感じませんでした。
ただ、穏やかな前半と比べて後半は急展開ゆえか駆け足気味だったのがちょっと気にはなりましたね。せっかくの初長編だからもうクライマックスまでの道のりはじっくり読ませてもらいたかった気がしなくもないです。
ラストでは幼児期の賢也の曖昧だった記憶を埋めるように過去がきちんと明かされ、茜との関係も判明します。ハッピーエンドとは言えるでしょうがちょっと切ない結末でした。