5期・46冊目 『特務艦隊』

特務艦隊

特務艦隊

内容(「BOOK」データベースより)
いまも地中海はマルタ島に建つ慰霊碑。それは友軍のために果敢に戦い、地中海に散った日本海軍軍人を祀る。英国海軍軍人を父に持つC・W・ニコルが勇壮に描きつくす第一次大戦の秘話。

実は読むまで知らなかった海の家系・銛一家の連作シリーズの4作目。ところどころ前作のエピソード(シンガポールの反乱鎮圧など)が出てきますが、メインは地中海における日本艦隊の船団護衛なのでこの作品だけでも充分楽しめました。
第一次世界大戦にて、当時同盟を結んでいたイギリスの求めに応じて地中海に駆逐艦隊を派遣し、その時の戦死者の碑がマルタ島にあるというあらましは少し知っていましたがよくは知らなかったため、本作で詳細に書かれているような苦闘やヨーロッパ諸国との交流が実際にあったのかと思うとなかなか興味深いですね。*1
だいたい日露戦争と太平洋戦争に挟まれたこの時期の本はあまり読むことが無いので、非常に新鮮ではあります。


内容は日本海軍の特務機関に所属する銛一三郎少佐が特務艦隊派遣に際して、諸外国との調整や諜報活動などに活躍するというストーリー。三郎周辺や銛一一族だけでなく、史実の人物も頻繁に登場して当時の戦争当事国の状況が詳細に描かれています。
何よりも高度な戦術戦闘技術を持つだけでなく本場英国人をも凌ぐようなジェントルマンぶりを発揮し和製007とも言えるような銛一三郎が格好良すぎです。何度も窮地に陥りながらも敵を倒して帰還する鮮やかさが目立ちますね。


中でも派遣された特務艦隊の必死な任務の描写には感銘を受けました。第一次世界大戦に関して日本は労せずいいとこどりしたという印象がありましたが、こうやって遠く欧州の地へ行って戦った将兵がいたことはもっと知られてもいいですね。
作品内では、英国との関係など若干美化されている気がしないでもないですが、まだ当時の日本海軍としては列強への仲間入りを目指していた頃の美風が残っていて、恥ずかしくないように気を使ったのかもしれないなぁと想像しました。その反面、列強と植民地との間に表面化し出した軋轢も描かれているところが後の時代を感じさせていますね。

*1:その経験を後の戦争に活かせなかったのは残念であるけれど