- 作者: 東秀紀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/09
- メディア: 単行本
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内容(「BOOK」データベースより)
畏怖すべきは安土城!人間崩壊したのは、信長か光秀か?不思議なほど見事に清潔な魔の城。歴史文学賞受賞作家で建築家の傑作。
明智光秀が完成した安土城を見てどのような恐怖を抱いたか。物語はそこから始まります。
後世の人が想像するようなきらびやかさとは違い、当時としては一級の教養人でかつ建築に関しても優れた手腕を持っていた光秀による、内部の絵画の配置による思想や吹き抜けの危険性という視点にはなるほどと思わされました。城を単なる防御拠点ではなく、天下布武のシンボルとして考えていた織田信長だけあって、実際に見ればその構想の一端に触れられたはず。作品の中で再現された安土城の中を見回す光秀視点がなかなか良いです。
そして、順調に進む天下取りの裏で、かつてのような柔軟さを失った信長と配下武将との間に亀裂が生じた様を描いていきます。荒木村重や佐久間信盛らの次は自分かいう不安とまだ重用されている自信とで揺れる光秀の心理。
本能寺の変にまつわる俗説に見られるような恨み説や陰謀説ほど偏っていないですが、光秀と信長の間にあった確執に関しては細かく書かれていますね。
本能寺の変へと導く箇所では実は意外でありながらけっこう自然な人物を二人登場させました。
本能寺にて信長を斃した後はまるで抜け殻のようになって、ひたすら面目だけで秀吉と戦い死んでいった光秀。孤独の中で天下取りに突き進んでいった信長と違って、有能ではあっても普通の人間らしい弱さを持っていた様がよくわかります。返す返すも安土城が失われてしまい*1、その威容が幻と消えてしまったのが残念ですね。