5期・30冊目 『野望円舞曲 1』

内容(「BOOK」データベースより)
波打つ黒髪、陶器のような頬。はかなげな姿のエレオノーラ・ファルネーゼの胸のうちには、燃える想いが秘められていた。商業国家オルヴィエートの元首である父―母を殺した男への反撥。異母兄への憤り。いつか自分を縛りつける運命の鎖を断ち切りたいと思っていた彼女に、突然の好機がおとずれた。前触れもなく、領域に侵攻してきた他国の軍勢。安寧にひたっていたオルヴィエートに波乱の風が吹きこんできた。国家間の陰謀、渦まく人々の思惑。敵と味方が交錯する、波瀾万丈なスペースオペラ新シリーズ開幕。

野望に燃える主人公とその忠実なる従者。強大な敵と立ちはだかる困難。戦雲広がり始めた宇宙。
こ れ は 女 性 版 ・ 銀 英 伝 か。
でも言語・文化的にはドイツ風ではなくイタリアベースとなっていて、主人公の母国は宙域を結ぶ商業国家でフェザーンみたい。
スペースオペラ田中芳樹の名がつくと、つい余計な憶測をしてしまいますな。
共著という形にはなっているものの、あくまでも田中芳樹は原案と最終的なチェックのみ。物語の作り手としては荻野目悠樹という作家が負っているわけです。以前から複数シリーズを抱え、かつ遅筆な人ですから、こういったかたちの作品は他にも見ますね。
ただ、本作は銀英伝と同じスペースオペラなので比較してしまって見方が辛口になってしまうようです。*1


例えば、ヒロイン・エレオノーラの掴みどころの無さ。今まで自己主張しない気の弱い令嬢を装い、内に秘めた熱き想いは従者で親友であるベアトリーチェにしか明かさない。祖国の危機を前にして、ようやくその仮面を剥ぐというのですが、中途半端に隠しながらなのでまだまだその本性みたいなのは伝わってきません。
戦争の立役者としては、三兄・ジェラルドと役目が分散してしまったせいか才能の見せ所による痛快さが足りないですね。さらに父親で国家元首(ドゥーチェ)たるレオポルトの存在感が強いものがあり、エレオノーラとしてはまず家庭的な独立さえままならない。
強大な軍事国家ボスポラスに目を付けられてしまった商業国家オルヴィエートは今後どうなるのか?さらにその内部における権力争い。エレオノーラに近づく男たち、と見所はたくさんありますし、今後に期待というところでしょうか。


ちなみに、一巻だけの内容を見るかぎりは中世の地中海における、オスマントルコとイタリア諸国家との覇権争いを題材としたのかと想像。ボスポラスの首都はアナトリアとなっているし。
腐敗した王政国家ボスポラスは一代の英雄によって刷新され、軍事大国となって領土を広げているという記述があります。それに対してオルヴィエートは商業国家であり、単独では不利は否めません。果たして今後レパントの戦いのような艦隊決戦は起こるのか?ケマル・エヴヂミクによる治世に波乱は起きないのか?
また歴史的なエピソードを絡ませることもあるのか気になるところです。

*1:amazonのレビュー見てても銀英伝と比較する辛口意見が目立つ