6期・26,27冊目 『野望円舞曲8,9』

野望円舞曲8 (徳間デュアル文庫)

野望円舞曲8 (徳間デュアル文庫)

野望円舞曲〈9〉 (徳間デュアル文庫)

野望円舞曲〈9〉 (徳間デュアル文庫)

8巻

内容(「BOOK」データベースより)
母を苦しめた父を倒し、ついにオルヴィエートの実権を握ったエレオノーラ。だがその代償は大きかった。オルヴィエートは経済大国の地位を失い、大切な人々はエレオノーラの周りから去っていった。兄のジェラルド、親友のベアトリーチェ、そして想いを寄せた男・コンラッド…。だが、風雲急を告げる銀河の情勢はエレオノーラに休息の暇を与えない。銀河宇宙の果て、深宇宙と呼ばれる領域で、兄と親友がボスポラス帝国軍と条約機構軍との戦いに巻き込まれようとしている。エレオノーラは再び激戦の渦中へ。

今回からいよいよ新章突入です。といっても、ヒロイン・エレオノーラが念願のオルヴィエートの実権を握った代償はあまりにも大きく、ポスポラスからの脅威もあって前途多難な様子がうかがえます。国内に関しては新たな人材を登用して改革を行い、敵の軍事力に対して父と同じく経済面での対応を行う模様。それがどう実を結ぶのかと思っていたら・・・。
一転して深宇宙にて身を潜める「船団」の持つ禁断の技術を巡ってのボスポラス帝国軍と条約機構軍との戦いへと展開し、その裏では銀河をまたにかけて暗躍するアドリアナ・セルベッジアの姿が。
兄と親友が戦乱に巻き込まれてしまうと知り、国政を義姉に任せて小艦隊で飛び足してしまうエレオノーラ。物語的には重要人物を集めた方が面白いのはわかるんですけど、実権握ったばかりのオルヴィエートほっといて為政者としてどうなのかなって思ってしまいましたね。
ポスポラスやオルヴィエートとは違う道を選んだ「船団」の理想と現実についてはとても興味深いものがありましたが。


その一方でボスポラス帝国軍はムスタファ・ケペル率いる艦隊が謀略を交えてローレンシア条約機構軍を撃破。一気にローンセストンの本拠地を衝くという速攻を見せました。さらにケマル・エヴヂミク自らオルヴィエートを手中にせんと親征するところで終わり、コンラットやナギブも参入して次巻でオルヴィエートと船団を巡る戦いは大きく動くことになりそうです。
目まぐるしく動くストーリー展開で読者を飽きさせないのは相変わらずですが、戦いの決着がやや性急で強引すぎる気がしましたね。長い物語ゆえ、個々の戦い全てについてじっくりページを避けないのでしょうけど。

9巻

内容(「BOOK」データベースより)
幾世代もの間、深宇宙に潜んで“禁断の技術”を保持してきた“船団”。だがボスポラス帝国の銀河宇宙制覇が目前に迫る今、その命運は風前の灯と思われた。“船団”が助力を求めたのは、オルヴィエート。国家の最高実力者として、エレオノーラは決断を迫られる。対決か、恭順か。ジェラルドとエレオノーラ、兄妹がともに心を決めたとき、ボスポラス帝国大宰相ケマル・エヴヂミクは自ら大軍を率いてオルヴィエートに侵攻した。圧倒的な戦力差のなか、兄妹の選択は…!?大人気スペースオペラ、最高潮の第9巻。

前巻を上回る怒涛の展開ですが、フィナーレが近いせいかいくつか謎が明かされて、そして主人公たちは重大な選択を迫られることになりましたね。
前巻でも触れられていたアドリアナ・セルベッジアの出自ですが、さらに今回は特殊な因子によって短寿命であり、それを克服するために禁断の技術を利用しようとするも「船団」に拒まれて抜け出したこと。そして2代前に遡るエレオノーラとの関係が今明かされるのです。今まで何度か頭に浮かんだ宇宙のビジョンやまた父のいまわの際の言葉の意味も。
憎んでいた父を倒した後、権力を得たと同時にかけがえのない存在を失ったエレオノーラは今までのような果断さが無くなってしまってしまいましたが、ボスポラスによる本格的な侵攻を前に船団との接触で兄と親友との再会やまったく違う社会を築こうとしている様を目の辺りにして、本来の彼女らしさを少しは取り戻せたかなという感じはします。
ただ、いざボスポラスとの戦いが続くとやはり主人公はジェラルドに奪われてしまってるけど。個人的にはジェラルドには船団にいる間にベアトリーチェに何をしたか問いただしたいところです(笑)


さて、ローレンシア条約機構軍が敗れた後、合理主義・能力主義を第一とするボスポラスによる覇権が進む中で、オリヴィエート(嘆きを宙峡)を巡る攻防戦が最後の仕上げとも言えるのでしょう。しかしそこで立ちはだかるは当然ジェラルドであり、常に劣勢な中で意外な戦力の活用で跳ね返すあたりが智将たるゆえん。
今回はちょっと面白い一言を残してくれました。

「戦争ではね、実は話の通じる敵こそ一番失ってはならない存在なのさ」

劣勢だからこそ戦いの落とし所を見きわめてそのために最大の努力をすべきというのが彼のポリシーですね。
ところでボスポラス側も一枚岩ではなくて、ついに大提督による謀反が出てしまいました。権限も大きい大提督の裏切りはかなり打撃のはずではと思うところ。まるでその経緯と言い、本能寺の変を髣髴させるところですが、ちょっと卑怯な手で不発に終わらせてしまう。まぁまだケマル・エヴヂミクには出番が続くということでしょうか。