6期・25冊目 『複製症候群』

内容(「BOOK」データベースより)
兄へのコンプレックス、大学受験、恋愛。進学校に通う下石貴樹にとって、人生の大問題とは、そういうことだった。突如、空から降りてきた七色に輝く光の幕が人生を一変させるまでは…。触れた者を複製してしまう、七色の幕に密閉された空間で起こる連続殺人。極限状態で少年達が経験する、身も凍る悪夢とは。

土手を歩いていたら突如空から落ちてきた虹色の円筒形の物体の中に閉じ込められた高校生たち。それに触れると自分とそっくりのコピーができてしまう。しかも記憶までコピーされてオリジナルとまったく同じ自我を持つというなんともややこしい設定ですね。
円筒形はさほど広くなく、近くには川を越えて2軒の家しかなく、しかもそのうち1軒は彼らの学校の教師の家なのですが、半分に切断されている状態。もう1軒は人嫌いで知られる老婦人の屋敷。
外と連絡取ろうにも電話は使えず*1、円筒形を通れば出られるがそうすると必ずコピーができてしまう。
そんな中でのサバイバルを描いた作品です。


登場人物は進学校に通う一見普通の高校一年生の男女5人と若くて男勝りな女性教師+謎の男性なのですが、不可解な現象を前にして、隠されていた愛憎関係が次第に露わになってゆくのが極限状態のなせる業でしょうか。さらに唯一の情報源とも言えるテレビによって、コピー人間は法律で罰せられる(処刑される?)と聞いてから関係がギクシャクしてくるのですね。なぜならすでにコピー人間が存在するから。
お屋敷で発見された殺害死体を皮切りに次々と殺害が起こってしまう。高校生がそんな簡単に殺人を行うのかという疑問も生じますが、閉ざされた環境にコピー人間、そういった有り得ない状況で露わにされた感情が過激な行動に走らせたということなんでしょう。主人公(これも途中からコピー人間に入れ替わる)のみひたすら逃げ回っていたばかりでしたが(笑)
SF的設定の縛りの中でのサスペンスというのは著者の得意とするものらしく、多少強引ながらもその展開には最後までぐいぐい引っ張られていきます。
コピー人間だからこそ起こった悲劇はコピーされたことによってハッピーエンドとして終わった感があります。


蛇足ながら作中にはクローン人間という表現もありましたが、円筒形に触れた時点で服装を除く身体と記憶がそっくり同じ人間が生まれるので、クローンではなくまさに人間のコピーなんですよね。

*1:特に言及されていないが携帯電話が普及していない時代と思われる。ちなみに1997年発刊