横山信義 『蒼洋の城塞3』

蒼洋の城塞3-英国艦隊参陣 (C★NOVELS)

蒼洋の城塞3-英国艦隊参陣 (C★NOVELS)

内容紹介

第二次珊瑚海海戦に勝利し、豪州の要衝ポート・モレスビーを攻略した日本軍。大きく戦力を落とした米国に対し、山本五十六は早期講和を申し出る。しかし、米国はこれを拒否。モレスビー近海の日本軍補給線への攻撃を続行した。さらに豪州の戦況を受け、ついに英国が対日参戦を決定。最新鋭戦艦「キング・ジョージ五世」「デューク・オブ・ヨーク」を擁する英国M部隊と、「金剛」「榛名」、そして「大和」が激突する――!

鉄壁の守りを誇る皇国を描くシリーズ第3弾。

前巻、第二次珊瑚海海戦における機動部隊同士の海戦にて日本軍が勝利を収めた結果、米軍の稼働空母は0となりました。*1
ポートモレスビーへの補給もなんとか継続されて、やっと航空基地が稼働。
オーストラリア本土への航空・水上攻撃も行われ、連合国からの離脱の可能性も見えてきたところでイギリスはキングジョージ5世級戦艦の2隻、巡洋戦艦正規空母2という強力なM部隊を派遣。
M部隊の役目は本国はオーストラリアを見捨てないというポーズだけでなく、離脱の気配を見せたら恫喝するという裏の使命もあったようです。*2

そして、オーストラリア北東岸をめぐる航空戦はアメリカが距離の関係で零戦が護衛できる時間が充分に取れないことやP-38の投入で一式陸攻の損害が増えてしまいます。
また、ポートモレスビーへの補給船団への攻撃も無視できないほどになるなど、日本が恐れていた消耗戦の状況になっていきます。
日本軍の攻撃先が基地から補給船団へとシフトしたことにより、米軍も護衛空母を繰り出し、ここにきて補給線維持を巡る両軍主力同士の戦いへと発展していくことになっていくのでした。
GF首席参謀・黒島亀人のように「たかが輸送船に空母を」という声もありますが、潜水艦を漸減作戦ではなく通商破壊に使用したり、補給船団護衛の為に海防艦を量産するなど、この世界の日本軍は補給に対する考え方は少しはマシになっているようです。


さて、主力たる空母同士の戦いでは数に勝る日本軍が勝利を収めるも、戦果の割には機体の損害が無視できないほど増えます。
米軍の対空能力の高さや戦闘機を増やして防御に徹するといった作戦もあるのですが、やはり零戦を始めとして日本軍の機体は優秀だが撃たれ弱いというのが大きな原因。
今後は物量を増やして相手に日本軍がどう対応するかが気になるところ。
そして、大規模輸送船団を撃滅するために日本軍は戦艦大和と金剛・榛名を主力とした部隊を派遣。
アメリカの新鋭戦艦は先に急降下爆撃で損傷を受けていたため、M部隊単独で迎え撃つことになります。

いかに新鋭艦であろうとキングジョージ5世級の主砲口径は36cm。
大和を繰り出したことにより勝利は揺るぎないものだと信じていた近藤信竹率いる艦隊司令部。
しかし先手を打たれて不運が重なり、おまけに優勢に戦いを進めていた榛名がダイドー級軽巡による小口径弾の滅多撃ちで損害を喰らうなど思わぬ展開でどうなることやらと。*3
さすがに著者は簡単に日本軍を勝たせませんね。
多くの損害を出しながらも勝利を収めた日本軍は翌日になって残余の航空部隊を繰り出して輸送船団の撃破に成功。
これをもってオーストラリア防衛のためにはるばる駆け付けたイギリスの援軍は主力の半ば以上を喪い、チャーチルに二度目のショックを与えたわけです。*4
今のところ、勝ち続けてはいても、戦争の落としどころが見えません。講和交渉も聞く耳もたないし。
物量に勝る米軍が本格的な反攻に出てくるわけで、攻勢限界に達した日本軍にとっての本当の試練はここから始まるんでしょうな。まさにタイトル回収でしょうか。
開戦からGFを率いていた山本五十六長官の勇退を含めて、いかに持久戦をこなしていくかがみどころとなっていきそうです。

*1:実際はワスプのみ巡洋艦が盾となって魚雷を受けたおかげで生き延びた

*2:ブリカスと言われる所以

*3:以前はブルックリン級でよく見た展開

*4:最初はマレー沖海戦のプリンスオブウェールズ喪失