4期・55冊目 『ぼくらはみんな閉じている』

ぼくらはみんな閉じている (新潮エンターテインメント倶楽部)

ぼくらはみんな閉じている (新潮エンターテインメント倶楽部)

内容(「BOOK」データベースより)
笑顔が見たかっただけなんだ―。ただ、一緒にいたかったの―。きっかけは些細なことだった。自分だけは堕ちるはずがないと思っていた。しかし、いつしか夢想は妄想へと変貌し、熱烈な愛情は純粋な狂気に姿を変えた。欲望という脳内麻薬が炸裂するとき、人は想像を超えた行動に出る!鬼才が描く、心の壊れてゆく九つの風景。

心の中でひっそりと芽生えた欲望・妄想が暴走することによって、結果的に壊れていくストーリーばかり集めた短編集。
著者の作品を読んだのは2回目ですが、1作目の『彼岸の奴隷』の登場人物たちの壊れっぷりが衝撃的であっただけに、短編だとやや物足りないというか展開が唐突過ぎるようにも感じましたね。まぁその分、様々なかたちの気持ち悪さ・恐ろしさが味わえると言っていいでしょう。そういうのに耐性が無い人は避けた方が無難。
そんな中でも強い印象が残ったのは「かっくん」と「乳房男」でしょうか。


「かっくん」
無駄の無い不条理ショートストーリー。妻が拾ってきたおかしな人形。不気味に思いながらも捨てさせることができない夫。
しかし夜になって突然「ハアー!かっくんかっくん」と叫びながら激しく腰を振って襲い来る人形。その描写は怖さと同時にユーモアを感じますね。その人形と「かっくん」化された人々に追い詰められる主人公の恐怖はいかばかりか。個人的に筒井康隆のブラックユーモアを感じさせます。


「乳房男」
惚れた女性のなすがままに犬そのものと化して一緒に暮らすようになった男。
とことん彼女に従属した生活は男の体質にも変化をもたらし、しまいには彼女の体を通した食べ物しか受け付けなくなる。そして究極的に男が抱いた欲望とは・・・。
これをただの変態行為と見るか、それとも一風変わった愛のかたちとして見るかで印象が違ってくるでしょう。
狂気に満ちた行為をあくまでも真面目に実行に移そうとする彼女が怖いです。最後を飾るにふさわしいヒロイン。