9期・58冊目 『殺戮にいたる病』

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

冒頭で犯人による最後の犯行場面らしいエピローグが描かれるという変わった形式で幕を明けます。
で、結果的にその場に居合わせた3名の視点で物語が綴られていきます。
容姿も学力にも恵まれていながらも毎日を虚しく生きていたが、「真実の愛」を求めて凶行を繰り返す主人公・蒲生稔。
息子の部屋を事細かにチェックする内に、息子が世間を騒がせている事件の犯人ではないかと疑心暗鬼になってゆく主婦・蒲生雅子。
定年退職した元警部で妻を亡くして間もない樋口は、妻の担当だった看護師と個人的に親しくなったが、彼女が蒲生稔の第3の犠牲者となったために事件に関わっていく。


女性の首を締めて殺害した上で凌辱を尽くす。
まさに死んで冷たくなった相手に興奮するというネクロフィリア
しかも引き続き愛するために乳房や性器を切り取って持ち帰るという所業。
そしてその快楽が忘れられず、新たな標的を求めて夜の街を彷徨う。
普通の感覚からしたら、その場面を想像すると吐き気を催すほどの凄惨でおそましい描写が続きます。
それでもサクサク読めてしまったのは不思議。
今までの読書歴から自分にある程度グロ耐性があったということと、三者の視点を順に淡々と描かれるので、意外と客観的に読めたからでしょうか。
息子のゴミ箱の中身まで入念にチェックし、自慰の回数まで把握している蒲生雅子の章も別の意味で気持ち悪かったですけどね。


ついに樋口らが犯人の足取りを掴んでからのクライマックスで訪れる疑念と衝撃。
正直、読み終えた後に茫然となってしまいました。
振り返ってみれば違和感が生じた部分*1もあることはあったのですが、視点の切り替えが効果的なので、初見で気づくのは難しいでしょう。
見事な叙述トリックでした。


そういえば、樋口が犯人像を専門家に相談してプロファイルする過程で言及されていたのがアメリカで実在した殺人鬼*2エド・ゲイン。
『オリジナル・サイコ―異常殺人者エド・ゲインの素顔』
奇しくも母親の存在が精神的に影響を与えていたというのが共通しています。
死してなお母親に支配されていたエド・ゲインが哀れに思える部分があるのに対して、原点に戻って想いを遂げようとした主人公の行為(かつ直前に主人公を止めようとして返り討ちにあってしまった人物も含めて)がいっそう衝撃的な結末として後味の悪さを残してしまいました。

*1:二人目の被害者である少女にいきなり「おじん」と呼ばれたことや稔の中の母親像

*2:というかネクロフィリアとしての所業で悪名高い