4期・29冊目 『時生』

時生 (講談社文庫)

時生 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつあるとき、宮本拓実は妻に、二十年以上前に出会った少年との想い出を語りはじめる。どうしようもない若者だった拓実は、「トキオ」と名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人・千鶴の行方を追った―。過去、現在、未来が交錯するベストセラー作家の集大成作品。

不治の病を患った少年が最後の時を迎える際に魂だけ過去に飛ばされて、若き頃の父親に出会うというストーリー。
ちょっと前に人力検索にて【タイムスリップ体験者募集】という質問をした時に、親の若い頃を見てみたいという回答が意外と多くありました。
子供にとって、親の若い頃は当人の言葉か写真でしか知りません。結婚・出産前の知られざる親の姿を見たいという気持ちはわからないでもないです。更にその時代の雰囲気みたいなのは実際に体験した世代ではないと理解できないのもあるのでしょう。
トキオは不思議な現象によって、父親としてではなく同世代の若者としての拓実を知ることができて、嬉しくもあるが同時に落胆もする。結構そんなものなのでしょうね。


トキオにとって、その時代の拓実の恋人・千鶴は母親ではないことはわかっているけれど、行きがかり上事件に巻き込まれたらしき彼女を追う拓実に同行。そして拓実本人は避けたがる彼の出生の謎解きに積極的に協力します。
そして様々な出会いの末に何もかもが解決されたと思った時、ある女性を見かけたトキオは、「未来を変えられないかもしれないけれど、起こるとわかっていながら見過ごしはできない」と言い残して拓実の元を去る。*1
それはトキオ自身が病気のリスクを承知しながら生み育ててくれた両親に報いたかったためでしょうか。


物語的にはトキオの行動が両親の人生にとって大きな影響を与えたわけですが、どんな人にもそれぞれに出会いと別れ・選択と決断を経験してきた上で今があり、不思議な結びつきがあって親と子となったことを考えさせられます。
宮本拓実とトキオの物語がこんなにも気になるのは自分も父親であり、結婚そして子供を得た自分の人生に感じるところがあるからなのでしょうねぇ。
これから親になる人や、もう親離れするくらい子供が大きくなった親の立場の人にも、親子の縁を改めて考えてさせてくれるこの作品をぜひ読んでもらいたいです。

*1:将来の母親が遭遇するかもしれない大事故から守るため