7期・20冊目 『ハローサマー、グッドバイ』

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
夏休暇をすごすため、政府高官の息子ドローヴは港町パラークシを訪れ、宿屋の少女ブラウンアイズと念願の再会をはたす。粘流が到来し、戦争の影がしだいに町を覆いゆくなか、愛を深める少年と少女。だが壮大な機密計画がふたりを分かつ…少年の忘れえぬひと夏を描いた、SF史上屈指の青春恋愛小説、待望の完全新訳版。

夏休暇に訪れた港町で1年ぶりの再会をした少年と少女。子供から大人への階段を昇る時期におけるひと夏の恋物語。実際甘酸っぱいテーマではあるのですが、SF史上屈指の青春恋愛小説と銘打ってあるだけにそれだけじゃ済まない。
というのも、地球とはまったく環境の違う星に住む異星人たちの物語であり、技術や文化的背景としては地球の19世紀に近いか。
主人公たちこそ人間と変わりないですが、精神感応能力によって困っている人間を助けることもある動物や、逆に水中に潜み人間の足を凍らせて引きずりこむ氷魔を始めとする恐ろしい捕食生物もいたり。
読んでいて「おや?」と思ったのは、「凍れ!」「凍えた」といった氷や寒さに関する単語が頻出すること。これは命に関わるほどの厳寒な居住環境のために罵倒語まで影響を受けているということなんですね。そういった世界観もよく作りこまれています。


この星では二大大陸に分かれていて、少年たちが属する国家と敵国とは長年の戦争状態で物資が逼迫していたり街がいつ戦闘に巻き込まれるかといった不安な状況にも触れられるのですが、政府高官である父や宗教狂いの母からの「良い子」の期待からの反発、そして身の回りに対してまっすぐで前向きな少年視点で進行していきます。そこにあるのは大人と子供の狭間で揺れる反抗期独特のやつですね。感情移入するほどではないけれど、なんか理解できる感情ではあります。


やがて少年は少女との恋に全てを捧げ、世界はバラ色に満ちていくかと思いきや、戦争という名のもとに大人たちの陰謀の影が落としてゆく。
それまで書かれてきた世界観が重要な伏線となって驚きの結末が待っているのです。
爽やかな読後感とは言えないですけど、こういった深みのあるラストはSFならではでしょうね。
個人的には信じていたものに裏切られた父親の姿が滑稽でありながら笑えないですけど。