7期・19冊目 『アヒルと鴨のコインロッカー』

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!注目の気鋭が放つ清冽な傑作。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。

伊坂幸太郎は『終末のフール』以来の2冊目。今回はストーリー仕立てに期待して買ってみました。
大学入学の際に引っ越した椎名が初対面の隣人・河崎に「一緒に本屋を襲わないか」という破天荒な誘いを受けて、はっきり断れずにずるずる付き合うことになってしまう”現在”。
そしてペットショップ店員でブータン人のドルジと暮らす琴美がペット殺しの犯人グループに遭遇して否応なく事件に巻き込まれてゆく”2年前”。
二つの時間軸が交互に展開されていく物語となっています。
軽妙な語り口もさることながら、椎名が大学入学・引っ越しという新しい環境に対してとまどうさまや、思うところはあっても周りに流されやすい心理描写が自然で感情移入しやすいですね。


途中から登場するペットショップ経営者の麗子がキーを握っていて、彼女と椎名が関わることで徐々に2年前にあったことに近づいていく。美人なんだけど人間らしい感情が欠落したような、それでいて決して冷たいわけではない麗子と椎名らの会話は微妙にズレていてコミカルに感じますね。
また、一応椎名は主人公なのに、3人の物語にとって脇役的な自覚を持つところが逆に新鮮だったり。


そして河崎・ドルジ・琴美の3人になにがあったかが明かされ、想像もしなかったどんでん返し。*1
2年前の会話でかわされるブータン人の宗教観や河崎の突拍子のない願望、ひょっこり顔を出す犬猫たち、そんなささやかな事柄まできちんと結末に納められており、そういう意味では驚きはあったけどすっきりした読後感でしたね。

*1:ヒント:人物の入れ替わりってやつ