4期・30冊目 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

漱石と倫敦ミイラ殺人事件 (光文社文庫)

漱石と倫敦ミイラ殺人事件 (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
英国に留学中の夏目漱石は、夜毎、亡霊の声に悩まされ、思い余って、シャーロック・ホームズの許を訪ねた。そして、ホームズが抱える難事件の解決に一役買うことになる。それは、恐ろしい呪いをかけられた男が、一夜にしてミイラになってしまったという奇怪な事件であった!年少の読者にも読みやすい「総ルビ版」で贈る、第12回日本ミステリー文学大賞受賞記録企画。

シャーロック・ホームズ&ワトソンと夏目漱石という日英文学史上の超有名人が登場するだけになんとも興味深い作品ではありますが、それだけにいい加減な内容は許されず高いレベルが要求されるのではないかと思います。
そこはワトソンと漱石、双方の視点の記述が微妙に食い違う展開を見せて、天才と○○は紙一重なホームズの2面性が笑えます。*1それでいて怪異現象に対する謎解きの構成も見事な本格ミステリに仕上がっていますね。


おかしな初対面(それも漱石のホームズに対する印象)によってどうなることかと思われたのですが、漱石がミイラ事件の謎解きや人助けに一役買ったり、ホームズの推理や行動力に漱石が感嘆して徐々に友誼が深くなっていくのが好ましいです。さらに最後の別れのシーンには、あの名作のきっかけを思わせる件があったりしてまさに見せ場ですね。
また、20世紀初頭のロンドン市街の描写やロンドン市民から見た未だ知られざる日本の印象などが当時の雰囲気をよく醸し出しています。漱石が西洋人の背の高さに驚く記述がありますが、今と違って国外の情報が乏しい中、当時の日本留学生たちの苦労の一端が窺い知れる気がしますね。

*1:まずい初対面が漱石の主観に影響を与えたのだろうと始めに理由付けがなされている