2期・83冊目 『リセット』

リセット (新潮文庫)

リセット (新潮文庫)

出版社/著者からの内容紹介
遠く、近く、求めあう二つの魂。想いはきっと、時を超える。『スキップ』『ターン』に続く《時と人》シリーズ第三弾。

「また、会えたね」。昭和二十年五月、神戸。疎開を前に夢中で訪ねたわたしを、あの人は黄金色の入り日のなかで、穏やかに見つめてこういいました。六年半前、あの人が選んだ言葉で通った心。以来、遠く近く求めあってきた魂。だけど、その翌日こそ二人の苛酷な運命の始まりの日だった→←流れる二つの《時》は巡り合い、もつれ合って、個の哀しみを超え、生命と生命を繋ぎ、奇跡を、呼ぶ。

「時と人」シリーズも3作目。それまでの2作があくまでも日常的な出来事をテーマにしていたのに比べ、本作は実際に起こった戦争や事故、そして33年周期で増大するしし座流星群といった歴史的な出来事が大いに関係するのが違いますね。
だから時系列で見ると、昭和10年代(真澄の少女時代)から始まり、昭和30年代(和彦の少年時代)、大人になった和彦の時代、そして現代とそれぞれの時代を継いで紡ぎだされているのです。
リセットという言葉は、よく知られているように初期の状態に戻すという意味で、まぁゲームの影響かどうか知りませんが、結果がまずかったらリセットすればいい、というような軽い意味で使われているらしい。
でももう一つ「継ぎ直す」という意味もあるそうで、現実に戦争や事故で多く起こったであろう別離の哀しみを時が継ぎ直すというところに作者の願いが込められているようです。*1


ところで作品の中で四分の三くらいを占める、過去に当たる部分をどう読むかで人によって感想は違ってくると思いますが、他のレビューでは「長すぎる」「共感できない」といったような否定的な意見もありました。
でも私はもともと歴史が好きで、その時代を生きた人がどう感じながら生きたかということに興味あったということもあって、当時の感覚とか雰囲気に素直に入り込めましたね。同じ戦中時代を描いた作品でも、女性観点のものは全然読んでなくて新鮮だったというのもありますが。*2
そして、時代は違うけど、和彦の悪ガキ時代の描写など、記憶の底に眠っていた自分の小学生時代を思い出すことができて、読んでいてわくわくしました。


時に大きな哀しみに見舞われたけれど、時がめぐり合わせた二人。最後になって素直に「良かったなぁ」と思った読後感が爽やかで心に染みる作品でした。

*1:文庫版の宮部みゆきと作者との対談で言及されています。

*2:もちろん、作者の丹念な取材と特有の心理描写が生かされているのでしょう。