去年、歴史小説と人名についてというエントリを書きました。命名の文化というのは国ごと・時代ごとで違っていて、なかなか面白いものです。
さらに生まれてきた子供に対する命名だけでなく、ものに対しての命名もまた違いがあるのだと思います。本当に奥深くて、素人ながら調べていてもきりがない。
今回は、個人的に子供の頃からのプラモデルやら戦記ものでお馴染みの軍艦の命名について書いてみたいと思います。
世界の軍艦では人名・都市名がポピュラーですが、日本では戦前・後に関わらず使われませんね。地名は旧国名など限られていて、代わりに山河や気象など自然が用いられることが多いです。神話・伝説から取られる場合もありますね。今も昔も艦種ごとに細かい規定があるようです。
艦種 | 使用名の種類 | 例 | 備考 |
戦艦 | 旧国名 | 大和、武蔵 | 「扶桑」も一応、日本の別名だからか |
巡洋戦艦 | 山岳名 | 比叡、金剛 | 装甲巡洋艦からの流れをくむらしい |
空母 | 神話に登場する動物を含む空を飛ぶ物の瑞祥から | 鳳翔、飛龍、翔鶴 | 鳳凰、龍、隼、鶴、鷹など |
重巡洋艦 | 山岳名 | 高雄、鳥海 | |
軽巡洋艦 | 河川名 | 阿武隈、阿賀野 | |
練習巡洋艦 | 神社名 | 香取、香椎 | |
一等駆逐艦 | 天象気象 | 峯風、秋月、夕雲 | 結果的に同型艦は艦名で韻を踏んでいる(例:「〜風」「〜月」「〜雲」) |
二等駆逐艦 | 植物名 | 松、樫 | |
潜水艦 | 排水量により「伊」・「呂」・「波」いずれか+数字 | 伊47、呂100 |
ただし艦種変更しても、元の名が引き継がれました(例:赤城・最上)。
人名についてはこんな逸話もあったそうです。
明治天皇から艦名についての御下問があり、臣下が諸外国では偉人の名前をとることがある旨奏上したところ、「船が沈んだらその人に失礼になる」との御言葉があり、以後日本では艦名に人名を使用しないこととなったとされている。
ウィキペディア−艦船の船名
個人的な感覚では、「プリンス・オブ・ウェールズ」や「ビスマルク」って聞くと格好いいですけど、戦艦「織田信長」とか、イージス艦「東郷平八郎」とか付けられたら違和感が・・・。
そういや漢字文化圏の中国・韓国でも人名は聞かないなぁと思っていたら、実は韓国では李舜臣級駆逐艦や世宗大王級駆逐艦があり、台湾でも「成功」*2という艦があることを最近知りました。
そしてドイツが第一次世界大戦後に竣工させた装甲艦(後に重巡洋艦)「ドイッチュラント」にもこんな話があったそうです。
ヒトラーは(ドイツ語でドイツを意味する)ドイッチュラントの名を持つ艦が失われた場合の国民に及ぼす心理的・宣伝的マイナス要素を憂慮し、ドイッチュラントをプロイセンの将軍リュッツォウ(Lutzow)に因んだ艦名に改名させた。
ウィキペディア−ドイッチュラント
こちらは人名ならば別にいいのかと。
昔から人名を付けることに積極的な欧米国にしても様々です。
王族や政治家から付けられるのはほぼ共通しているみたいですけど、海軍国であるイギリスやアメリカは武勲のあった提督名が多く、陸軍国の独・仏・ソ(露)では構わず将軍名*3でも付けますね。ローマからの長い歴史を持つイタリアは歴史の中から選びたい放題。「レオナルド・ダ・ヴィンチ」という潜水艦もあるそうですが、本人からしてみれば空母か航空機の名にして欲しかったかもしれません。
特殊なものとして、イギリスでは「インヴィンシブル」(無敵の意)というように威勢のいい単語を選んだり、ライオンやタイガーといった強そうな動物名を選ぶあたりはなんか無邪気というかお茶目(笑)
アメリカでは近代の戦争での激戦地から取る名前があるのですが、「タイコンデロガ」(南北戦争)や「レキシントン」(独立戦争)は自国内だからいいとしても、「イオー・ジマ」(硫黄島・太平洋戦争や「インチョン」(仁川・朝鮮戦争)みたいに他国の地名を勝手に取るなよって思いますな。