- 作者: フィリップ・K・ディック,土井宏明(ポジトロン),浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1984/07/31
- メディア: 文庫
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第2次世界大戦が枢軸側の勝利で終わり、アメリカは分割、ソ連は消滅。史実の米ソが日独に置き換わったような世界で、アメリカ西海岸の白人は経済的にも文化的にも日本に頭があがらない。
そんな中、「もしも第2次世界大戦で連合軍が勝利していたら」という小説が流行していた・・・。
読んでいて感じたのが、ナチスドイツの技術的躍進と人種差別的な非道が世界規模で強調されていること。後半の後継者争いの段になると史実の高官が実名で次々と登場したり派閥争いまで演じます。
それに比べて、日本人は几帳面さと高尚な精神(武士道や禅など)によって、比較的好意的に書かれていて面映いようです。*1
他の70〜80年代に書かれたアメリカの小説を読んで感じるのは、ナチスの脅威による影響が相当強かったということです。太平洋で暴れていた日本人のことは、所詮田舎の暴徒扱いでしょうか。やはりヨーロッパ重視なんでしょうなぁ。
政治的な面では日独の対立を予兆させる点が暗示されていますが、そのへんはあまり重視されず、あくまでもアメリカ西部を舞台にした各個人の描写がメインになっています。
そこで重要な指針となるのが易経。日本人のみならず日本影響下の地にいるアメリカ人にまで広まっていて、これでもかというくらいに頻出します。*2
更に衰亡しつつあるアメリカの伝統工芸や人物の詐称などを通して、真贋が一つのテーマとして取り上げられている点から、思うに物質文明大国たる現実のアメリカ文化に対して、この世界では精神性が重視されているということが書きたかったのではないかと思うのです。
で、作品世界で流行している小説についてですが、現実とは違ってある種の理想世界に近い感じ(人種差別が撤廃されていたり)。徹底した管理社会であるドイツ影響下では発禁であるものの、日本影響下地域ではアメリカ人だけでなく日本人でさえも楽しんでいるのは日本人の節操無さをよく存じているんですかね(笑)。
でも読者によって(作品内における)現実世界と小説で書かれた世界を比較させ、単純に小説世界に憧れるというわけでもないのが面白い。
これも現実に似たような現象が起きていることに関係するのかな。