8期・62冊目 『ペリー』

ペリー

ペリー

内容(「BOOK」データベースより)
1852年、マシュー・カルブレイス・ペリー東インド隊司令官に就任した。アジア航路確保に向けた日本の開国と国交樹立が任務である。57歳と退官間際だったが、英雄的軍人だった兄へのライバル心と、世界における祖国の優位性確保のため大任を引き受けたのだ。彼はオランダを頼っては有利な条約を結ぶことは難しいと判断。長崎の出島ではなく、江戸への入港を計画する。翌年、エド湾からウラガという町の沖に船を進めたペリーは、武力行使をちらつかせジャパン政府との交渉を優位に進めるが、そこに開国を迫る世界各国と幕府高官が立ちはだかった…。黒船襲来で騒然とする中、世界では何が起こっていたのか?知られざる英雄ペリーを初めて描き、世界的な視点で幕末史を塗り替える、著者渾身の歴史小説

1853年、浦賀沖に来航した黒船−当時の日本人にとって初めて見る蒸気船−。
それは国交を開くべくアメリカからやってきたペリー提督率いる艦隊でした。
その衝撃は日本の鎖国を開くきっかけになったことと後々の討幕と明治維新に繋がることから日本史上の一大トピックとして知られます。
幕末を描く上では無視できない当事件を取り上げた日本側視点の作品は多く読んでみましたが、当事者であるペリーを主人公としてアメリカ側視点で書かれた作品として非常に珍しいのではないでしょうか。


背景として、産業革命後の工業化により鯨油の需要が増えて捕鯨産業が活発化。そのため捕鯨船の活動が日本付近まで及んでおり、しばしば漂流者が辿りついていたことによる救助の関係や、水・食料・薪などの補給基地が必要になっていたこと。
アヘン戦争後、中国市場はイギリス・フランスに後れを取ってしまったアメリカが、未知の市場として日本に目を付けたこと。
特にカリフォルニアを取得したことで太平洋岸からの海路を使うことにより、先んじて日本の開国と通商を行うことでアメリカが欧州諸国の優位に立てると考えており、その計画推進者としてペリーの名がありました。
ペリー個人としても、メキシコ戦争勝利の立役者であり、退役目前の年齢(57歳)であったが、若くして亡くなるも独立戦争の英雄であった兄へのコンプレックスから未だ心満たされないまま。
そこで現役最後の大仕事として、長らく鎖国をしていた日本の開国へと意欲を燃やしていたことがわかります。


読んでいて意外だったのが、ペリーの日本ならびに日本人評価が良く書かれていることですね。まぁそこは日本人作家による日本向けの小説であるかもしれませんが。
高圧的な態度で知られるペリー提督が意外と神経質なところ。
最初は蒸気船と大砲にびっくりした日本人もすぐ慣れて好奇心旺盛なところを見せるなど長い歴史の割には柔軟性あるのが他のアジア人とは違うところ。
それに交渉に関しても日本人は変に卑屈でも頑固でもなく落ち着いており、完全にペリーのペースでは無かった様子が面白い。
ペリー個人としては対等の交渉相手として日本を買っていますが、一方で交渉のために武力誇示や強引な測量などもやってのけているわけで、経済活動のためには手段を選ばない英仏とは五十歩百歩かもしれない。
ただ新興国だけに思い切った手段を選んだことで鎖国が終わったのかと思うと感慨深いです。
国内では弱腰と批判浴びた江戸幕府の首脳もそれなりに頑張ったのかもしれないと思いましたね。
全体的に著者特有の一人称のねちっこい文章が終始綴られているので、慣れない人には読みにくさを感じるかもしれません。


そういえば、本作にも登場するのですが、浦賀奉行与力として初期の折衝を行った中島三郎助を主人公にした小説として佐々木譲『くろふね』を読んだのを思い出しました。
この時代は薩摩長州土佐の人物視点で書かれた作品が多いですが、まったく別の視点から書かれたものを読むのも面白いですね。