6期・80冊目 『くろふね』

くろふね

くろふね

内容(「MARC」データベースより)
ペリーが黒船に乗って浦賀へと来た。徳川幕府鎖国政策を覆す大事件が始まる。日本人として最初に近代に接し、最後のサムライとして生涯を終えた中島三郎助
の生涯を描く、歴史大作。

幕末、当時最新鋭だった蒸気船艦隊を率いたペリー提督の来日は、その後の日本の開国への扉が開かれたことという意味で非常に意義のある事件であり、国内にいたっては尊王攘夷か開国に大いに揺れ、諸候のみならず下級藩士出身の志士を動かしたこともあって幕末を主題とした書籍には欠かせません。
それをあえて、事件の現場に立ち会った一役人の視線から描いたという珍しい作品となっています。
しかも蒸気船による艦隊編成を推し進め、自ら艦隊指揮官兼特使としてはるばる太平洋を越えて外交交渉を進めるペリー提督の側からも描いているのが興味深いです。
理由もなく高圧的な態度を取ったのではなく、今までの徳川幕府の外交姿勢を教訓としていたこと。確かに日本側としては尊大なイメージのある提督ですが、本心では武力行使無く穏健な交渉によって開国させようという意図があったとされます。創作も混ざっているでしょうがアメリカ側の本音がのぞけるのもいいですね。
また、幕末の小説ではほぼ好意的に書かれている勝海舟がここでは口先だけのペテン師扱いとしてこきおろされているのも面白いです。
まぁ当時としては卓越した見識で融和策を取る弁舌の人・勝海舟と技術屋で政治的には保守的な中島三郎助ではそりが合わなかったのは確かなんでしょうね。


主人公である中島三郎助は代々浦賀奉行与力の家に生まれます。江戸の玄関口とも言える浦賀には外国の巨船が姿を現しようになっていて、もともと好奇心旺盛だったのに加えていやがうえにも進取の気風を受けたのかもしれません。
奉行所の応接方として外国船に乗り込むことようになると、スパイかと疑われるほどあちこち見て回り、質問攻めするのです。まるで子供が新しい玩具を接するよう(笑)
彼自身はもともと砲術の腕前も確かでしたが、当時最新の高島流砲術に大いに興味を示して習得、見よう見まねで洋式艦船を建造したりと新しい技術を学び生かすことに夢中になります。
さらに念願かなって長崎海軍伝習所の第一期生として選ばれ、オランダ人講師について学び、造船・航海・機関に関しても優れた技術を得るようになっていきます。*1
そういった経緯によってやがて徳川海軍の主要な位置を占めるようになり、自ずとその先の運命を決めるわけですが。


思想的な向きでは彼は幕府役人の域を出ず、最終的には薩長および彼らの迎合する旧幕臣への嫌悪などから、榎本武揚率いる蝦夷共和国の一員として函館で戦い死にます。
技術面で日本の曙に貢献しながらも、最後まで侍としての意地を張り続けた中島三郎助。こういった人物がいたことを知ることができたのが良かったです。ただ、榎本武揚のように生きて新しい日本のために尽力する姿も見たかったと思わずにいられません。

*1:ちなみに勝海舟も同じ第一期生だったが勉強についていけず恥を曝したことが中島三郎助との不仲のきっかけとして書かれている