7期・34冊目 『イリーガル・エイリアン』

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

内容(「BOOK」データベースより)
人類は初めてエイリアンと遭遇した。四光年あまり彼方のアルファケンタウリに住むトソク族が地球に飛来したのである。ファーストコンタクトは順調に進むが、思いもよらぬ事件が起きた。トソク族の滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見されたのだ。片脚を切断し、胴体を切り裂き、死体の一部を持ち去るという残虐な手口だった。しかも、逮捕された容疑者はエイリアン…世界が注目するなか、前代未聞の裁判が始まる。

冒頭、地球よりも文明が進んでいてかつ友好目的でやってきたという異星人(以下、トソク族)との理想的なファーストコンタクトが描かれています。
彼らの母船が損傷を受けたために技術供与の見返りに地球での修理を依頼、その期間は世界各地を訪問し歓迎されます。
体の作りが左右対称で主な器官が対になってできている人間と違って、器官が4つで構成されるのが基本のトソク族は(表紙を見てわかる通り)だいぶ容姿が違っていますが、人間の宗教観*1やユーモアも理解し、充分なコミュニケーションが取れる存在として描かれています。
中でもファーストコンタクト以来、ファーストコンタクトに立ち会った地球の科学者とトソク族のハスクは友人関係を築くまでに至ります。


そんな状況の中、トソク族に提供されていたカルフォルニア州の大学の施設内にて科学者が惨殺死体で発見され、アリバイが無いことやその独特な手口からハスクが容疑者として逮捕されることになってしまうのです。
かくして相手が異星人であろうと殺人罪として裁こうとする検察に対し、せっかく友好関係を築いたばかりのトソク族を処罰することによる影響を危惧する科学者らがベテランの黒人弁護士を依頼。前代未聞とも言われる裁判が始まることとなったのです。


小説における裁判劇と言えば、検察と弁護側の丁々発止の火花の散るような議論の攻防が見ものでありますが、法律論争によっては退屈に感じてしまう恐れもあります。更にアメリカの陪審員制度には馴染みが薄い部分もあったりします。
しかし、それがまったく気にならないほど面白かった!
むしろ、裁判の経過によって人間とトソク族の生態や進化の違いなどが明かされていき、それが評決にどう影響するのかハラハラさせられます。
加えてSFに関連するユーモアが盛りだくさん。トソク族始め、弁護士や検察官などのキャラクター造形も巧いですね。


最終的に事件当日に起こった真実と、隠されたトソク族の意図など明かされて、あっと驚く結末が待っています。
まぁ過去を知る日本人からすると国際連合が理想的に書かれ過ぎるきらいはありますが、そういった国家を束ねる仕組みがうまく機能しないと異星人とのコミュニケーションは難しいから仕方ないものでしょうか。
ずっと裁判に関わってきた弁護士と科学者と最後のやりとりが気持ち良い読後感でした。

*1:トソク族も絶対神を信仰している