7期・35冊目 『ボクハ・ココニ・イマス 消失刑』

ボクハ・ココニ・イマス 消失刑

ボクハ・ココニ・イマス 消失刑

内容(「BOOK」データベースより)
実刑判決を受けた浅見克則は「懲役刑」と「消失刑」のどちらかを選べ、と言われる。消失刑だったら、ある程度の自由が与えられ、刑期をどのように過ごしてもかまわないらしい。いったい、どんな刑罰なのか?究極の孤独。僕は、いないも同然だった。それでも、彼女を救いたかった。

とある障害事件の加害者となってしまった主人公・浅見克則は、懲役1年の判決が下された裁判にて控訴せず、刑が確定します。
そこで収容所のコスト削減のために試験的に導入された「消失刑」の選択も可能と言われ、試験期間ゆえに特別に短い8カ月というのもあって特に深く考えずに受けるのですが・・・。


消失刑が始まるとある程度の行動の自由は許されるものの、首に装着された特殊なリングによって他人からは一切見えることなく、かつ自分から声も出せずあらゆる手段の接触(近寄ることも文字による伝達も含めて)も不可能となる、究極の孤独刑であることが描かれます。
禁止事項に触れる行為はリングが狭まり首を絞める仕組みとなっているのですが、受刑者がそのつもりなくても、他人が気付かず近づいてくるだけでも首のリングが作動するので外を歩くのも油断ならない。当然のことながら道路で車などもよけてくれないという厳しい状況がすぐに明らかにされます。
食糧や身の回りの品だけは管理センターから支給されるものの、まさに都会の中のサバイバル。*1
扱いはともかく少なくとも近く人がいて最小限の会話がある普通の受刑者と違って、一切接触が許されない消失刑が始まると早々に克則は孤独に苛まれます。
特に刑務所ならば世間から隔絶されて目にすることも無いごく普通に暮らす人々が間近にあり、正月や花見といったイベントを目の当たりにするだけに余計に孤独感が増していくのがわかりますね。


そんな中での唯一の楽しみは8か月の刑期が終わって自由の身になること。
あらかじめリングに時計がはめこまれていて、その残り時間が0になるのをただひたすら待つわけです。
しかし、とあるきっかけでリングが衝撃を受けたためか、時計が止まってしまうのです。
計算上の刑期が過ぎてもリングは外れず、かつ管理センターでは刑期終了とみなされて食糧の支給も断たれてしまう。誰にもその状況を訴える事も叶わず、この先生きていくことさえ困難という絶望。
読む前の予想以上にこの消失刑で描かれる内容はあまりにも過酷であると感じました。


そのような状況で克則が偶然関わりを持てたのが同様に社会に疎外されつつも彼と違って仲間がいるホームレスたち(その中に中学の同級生を見つけ、僥倖もあってホームレス狩りから助けることになる)であり、かつて障害事件のきっかけを作ったと言える奔放な女性・彩奈*2の顛末を目撃したり、霊感のせいか克則が見える幼女・いずみを見つけるも為す術がなかったり。
いずれもほぼ傍観者の立場でしか無かったのですが、ある日突然克則の心に問いかけてきた女性・菜都美の声。不定期ですがテレパシー状態で会話ができるようになったのです。
やっとのことで自分の存在を認識してくれた彼女との心の繋がりを保ちたいと思いあがく克則は、やがて菜都美の置かれた不可解な状況から闇の臓器売買グループによって誘拐されて薬物で眠らされているところまで辿り着きます。しかも彼女の命は危機に晒されており一刻の猶予さえ無いことに気づく。
その時点で菜都美の置かれた状況を知り、救うことができるのは自分だけ。それが期限の無い消失刑を受けた我が使命と悟るのですが、人と接触できない彼にそれが可能なのか…?


平凡な青年であった克則が行きがかり上とは言え障害事件を起こしてしまい、罪を償うために控訴もせずに素直に服役しようとするのですが、逆に過酷な運命を招いてしまったことは皮肉とも言えます。
その結果としての想像以上の孤独や疎外感、それにちょっとしたことで感じる喜びや苦悩がよく伝わってるので、読んでいる方も消失刑がどういったものかを感じることができます。
リングが故障して主人公が絶望するあたりまでなんとも救いようが無くて鬱状態まっしぐら。それが菜都美との出会いによって展開が急激に進み、最後に待っているラストで多少は救われたのでほっとしましたね。

*1:住居は自宅アパートが使えるが、PC・電話など禁止事項に触れる諸々の物がなくなっている

*2:作中のその扱いが酷すぎるが