しょう‐き【将器】
将軍となるにふさわしい器量。また、その人物。
[大辞泉より]
第2次世界大戦時の日本陸海軍には真に将器たる人物はいなかった。あえて挙げれば一貫して対英米戦に反対し、戦争末期に講和に奔走した米内光政ぐらいか。
しかし戦場において限定すれば将器たる人物はいた。その中でも最も優れた人物は木村昌福であった。
というような出だしに自然と期待感が膨らみました。
そもそも木村昌福という提督は、キスカ島守備兵全員を救出を成功させた人物として名前くらいしか知らなかったのですが、架空戦記で横山信義の作品に何度か出てくる内に、その人となりに興味を抱き、もっと詳しく知りたくなってようやく当作品を読んでみた次第です。
ところがですね、この作品の半分くらいが戦争の詳細な経過記述と批判で埋まっているんですよ。
最初は、一通りのおさらいにいいかな、と思ったのですが、あまりに長くて正直うんざり。
生出寿という作家は、日露〜WW2までを取り扱った作品が多くて、私も何作か読んだことありますが、木村昌福に関することだけでは1冊分に足りないから他の作品から引用して埋めたんじゃないかと勘ぐってしまうほどでした。
さすがに山場のキスカ島救出作戦のあたりは細かく書かれていて興味深いです。
元・海軍軍人らしい的確な描写と、様々な資料を比較引用しながら考察を重ねてある点はさすがだと思いました。
同作戦を知るには、丁度良い作品だと言えます。
面白いのは、戦後に関係者によって書かれた資料(日記など)が食い違う点です。
例えば、最初の作戦を実施した時は、気象条件に適せず断念するのですが、その判断も
- 司令官自ら決断した*1
- 参謀による助言を受け入れた
と二通り記述があるのです。
当事者によって書かれた信頼すべき資料であっても、記憶違いや、ある意図によって捻じ曲げられた*2りするわけで、歴史資料を参考するのって非常に難しいものだと感じました。
読後の感想として木村昌福という人物は、
という、まさに理想的な戦場の将器であったと言えます。ただ、間違っても組織の中で出世するタイプではないですけどね。