4期・62冊目 『擾乱の海(2) マレー沖の雷砲』

擾乱の海 2 (歴史群像新書)

擾乱の海 2 (歴史群像新書)

真珠湾奇襲攻撃X日の直前、全世界の電波通信が途絶し、真珠湾攻撃に始まる日米の開戦シナリオは大幅な修正を余儀なくされた。シンガポール攻略に向かう山下奉文司令官の日本陸軍第二軍もまた、この異常事態の勃発に混乱を来たしていた。日本海軍は陸軍の上陸を援護すべく、シンゴラ沖、コタバル沖に展開するが、2隻の巨艦「プリンス・オブ・ウェールズ」「リパルス」を擁する英国東洋艦隊「Z部隊」は、日本軍の混乱に乗じて密かに出陣する。Z部隊阻止に失敗すれば、日本の南方攻略作戦は瓦解する!無線が使用不能な状況下、巧みに変針する英艦隊を補足できず苦しむ日本海軍航空隊。そして、英海軍の誇る巨艦が、日本艦隊に向けて咆哮する時が訪れる・・・・・・!

通信障害が発生した世界での架空戦記第2弾。今回は英・東洋艦隊と日・南遣艦隊との戦いを中心に南方作戦を描いています。
史実であれば、海洋での作戦行動中の戦艦が初めて航空機攻撃によって沈められた戦い(マレー沖海戦)となったはずですが、潜水艦や索敵機による偵察が行われても無線による連絡が不可能なわけでだいぶ様相が変わってきます。


前回と同様、目視頼り中心のきわめて不便な戦い方をせざる得なくなると、総合戦力で上回る日本側の利点が減り、小部隊ながら強力な戦艦を擁する英艦隊の方が有利になってますね。それに加えて現場の指揮官の判断がだいぶ影響するようで、海上経験の少ないトーマス・フィリップス司令官をサポートする英軍の幕僚に見られるようにいかに敵の動きを読むか、更に戦いの中での臨機応変ができるかどうか。そのへんは現実と変わらないのですが多少結果が露骨かな。*1
東洋艦隊と南遣艦隊が航空機無しで戦った場合については、以前のシリーズでも書かれた記憶がありますが、キング・ジョージ5世級の硬さと大西洋で経験積んだロイヤルネイヴィーの巧者ぶりが際立っているのは著者ならではですかね。南遣艦隊の巡洋艦は悲惨な目に遭いますが。*2まさに日本軍の受難を描く横山信義氏の本領発揮です。


さて、ここまでは一応史実をなぞってきましたが、まだ態度を決めかねているアメリカの出方が問題。実際のところ、世界を覆う異変によって戦争どころじゃないですよね。一時休戦するのが妥当なんでしょうが、実際には戦闘が起こってしまっている。
果たして第2次世界大戦は次巻で終わらせることができるのか。世界の人智を結集して太陽に起こっている異変に立ち向かう展開になるのか?ならないだろうなぁ。
とりあえず、物語の方向性としてはこのままネタだけ生かして既存の架空戦記路線でいくのか、もう少しSF色を強めて世界レベルで展開していくのか気になるところです。

*1:特に栗田健男と木村昌福の二人については著者の好みもありそう

*2:同じ巡洋艦でも米軍だと相当強いのにねぇ