11期・48冊目 『弥勒の掌』

弥勒の掌 (文春文庫)

弥勒の掌 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。妻が失踪して途方に暮れる高校教師・辻。事件の渦中に巻き込まれた二人は、やがてある宗教団体の関与を疑い、ともに捜査を開始するのだが…。新本格の雄が、綿密な警察取材を踏まえて挑む本格捜査小説。驚天動地の結末があなたを待ち受けます。

ある日突然、妻が失踪した高校教師の辻。
かつて魔が差して教え子に手を出したことが発覚して以来、家庭内別居とも言える状況となっていました。
それが、ようやく妻が出て行ったと早合点、針のむしろ状態の日々から解放された気分の辻は妻のことを放置していたのですが、友人から相談を受けた警察から疑いをかけられてしまいます。
一方、妻を殺された刑事の蛯原は表沙汰にできない内職で稼いでいたことを本庁の人事課に目をつけられて窮地に陥ります。
せめて刑事でいられる内になんとしてでも妻を殺した犯人を見つけ出して落とし前をつけたい。
そんな二人の被害者の共通点は最近信者を急増させている新興宗教教団。
偶然、教団本部を訪れて出会った辻と蛯原は互いの妻の消息を得るために協力することになります。
果たして、教団の中にはどのような闇が隠されているのか?


90年代に日本を騒がせたオウム事件に代表されるように、新興宗教団体というのはあの手この手で信者をかき集めては多額の寄付金を騙し取ったり、抜け出せなくさせたりなど、かなりいかがわしいものだという風潮ができました。
本作も急速に信者を集めて発展した宗教団体が登場。
妻がその支部に通った末に他殺もしくは失踪したという疑いがあって、二人の男が手がかりを求めて接触してゆくという流れになっています。
有名女優や大手コンビニチェーンの経営者が熱狂的な信者になっていたり、信者遺族が訴訟に発展しかけるも不思議と寸前に取り下げられたりと、調べれば調べるほど出てくる怪しげな事実。
当然、その宗教団体にはどのような闇が隠されているのか?と読み進むほどに気になっていきます。
そして淡々と明かされる真実。
そう来たか!と驚かされるというか、読者の思い込みを利用した巧妙なトリック。主人公のみならず、こっちも「なんだってー!?」ってなります。
教団の裏事情については本当に有りえそうというか…。
時代的なものもあって、教団のシステムについては大雑把というか、すっきりしない点は無くは無いですが、そこは想像力で補完するしかないかと思ったりもしました。
正直、主人公クラスの二人はどちらもかなり自分勝手な性格で、読んでいて嫌悪感を抱いてしまうので、まぁ無いだろうけど正義のヒーローの活躍で教団の闇が暴かれて・・・というストーリーを期待しちゃいけない作品ではありますね(笑)