11期・47冊目 『夢のカルテ』

夢のカルテ (角川文庫)

夢のカルテ (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

銃撃事件に遭遇した麻生刑事は、毎夜の悪夢に苦しめられていた。心理療法を受けようとした彼は、来生夢衣というカウンセラーに出会う。若いが有能な彼女には、ある特殊な能力が秘められていた。他人の夢の中に入ることができたのだ。その能力を活かして患者の心を救おうとする夢衣と、凶悪犯罪に立ち向かう麻生。二人は次第に惹かれ合っていくが―幻想的な愛の中に四つの難事件を織り込んだ、感動のファンタジック・ミステリー。

来生夢衣は幼い頃から人の夢の中に入れるという特殊能力を持っていました。
子供の頃にそれを迂闊にも喋ってしまい、孤独な時期を過ごすこともありましたが、母親の愛情に育まれて大人になり、その能力を活かしてカウンセラーになります。
催眠療法を行うところは通常と同じですが、寝ているクライアントに質問しながらその心理状況を探るのではなく、その夢の中に入って第三者の立場から観察するというのが特徴でした。
作品の中で最初のクライアントは捜査中に男に銃撃された刑事・麻生。
その際、刑事自身は命を取り留めたのですが、目の前にいた女性が撃たれて死ぬところを目撃。
それがトラウマとなって、毎晩たった1時間半で起きてしまうのでした。
心理療法として、彼の夢の中に入った夢衣は犯人らしき男の姿と、銃撃事件の真相を知るのでした。


いわゆる特殊能力を活かした心理カウンセラーをヒロインとした作品ですが、あくまでも夢衣自身はごく普通の女性として描かれていて親近感がわきます。
不眠症としてのクライアントとして訪れた麻生刑事の治療、そして事件解決に関わることで互いに惹かれあってゆく恋愛ストーリーとしての面もあります。
定番なのかもしれませんが、やはり幼い頃の親との日常が大人になっても強い影響を及ぼす。
大人になって、ふとしたきっかけでそれが表に出てくるというのが興味深いものがあります。
カウンセリングという心の奥深くまで関わる職業ゆえに患者からの恋愛転移、もしくはカウンセラー自身が恋心を抱いてしまう逆転移になっていないか、職業柄慎重になってしまうところが独特の印象を受けます。
四つの事件を通してストーリーが展開される中で、二人の過去に何があって、現在に至ったか丁寧に書かれていて、単なる恋愛ものとは違いつつ、心温まる印象を与えられる作品だと思いました。