10期・58冊目 『田村はまだか』

田村はまだか (光文社文庫)

田村はまだか (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
深夜のバー。小学校のクラス会三次会。男女五人が、大雪で列車が遅れてクラス会に間に合わなかった同級生「田村」を待つ。各人の脳裏に浮かぶのは、過去に触れ合った印象深き人物たちのこと。それにつけても田村はまだか。来いよ、田村。そしてラストには怒涛の感動が待ち受ける。’09年、第30回吉川英治文学新人賞受賞作。傑作短編「おまえ、井上鏡子だろう」を特別収録。

札幌すすきの通りにあるバー「チャオ!」はテーブル席二つとカウンター席だけの小さな店。
そこに地元クラス会から流れてきた男女五人が三次会を称して大雪で列車が遅れてクラス会に間に合わなかった同級生「田村」を待っているという導入部。
バーのマスター視線で名付けられた「エビス」「J&B」といった人物たち一人一人の過去の話が交わされつつ、時折思い出したかのように誰もが言う「田村はまだか」。


40歳と言えば世間では立派なおじさん・おばさんと認識される年齢ですな。
そして同郷の男女が集まれば昔話に花が咲く。
その中心にいるのが田村という男なのですが、その小学生時代は貧しい母子家庭で、水商売の母親にはしょっちゅう違う男がいたという。
そんな彼ですが中学卒業後に千葉県にて豆腐屋の修行に入り、今では店を継いで元同級生の妻と二人の子までいるという。
子供の頃から筋の通った格好いい生き方をしている田村を五人は夜中を過ぎても待ち続ける。いつのまにか読んでいるこっちも田村のことが気にかかってしまうっているのです。


テレビドラマで見るようなどこか現実離れした生活ぶりと違って、ここで書かれる登場人物たちの切り取られた人生の一面はリアルかつ赤裸々であると言えましょう。
ただそれだけに一回り離れた高校生に対する保健教諭の感情とか中年男女の不倫・離婚の展開が生々しくて、逆によろしくない印象を感じてしまうのも確かですね。
さて、結局田村はやってきたのかということですが、紹介文にあるような「怒涛の感動」というほどじゃありませんが、ハラハラさせた後にほっとする結末でした。