9期・49冊目 『怪しい人びと』

怪しい人びと (光文社文庫)

怪しい人びと (光文社文庫)

内容(「MARC」データベースより)
自分の部屋に戻ると見知らぬ女が寝ていた。女は居座りを決め込んだ。俺は動転して…。同僚のデートの場所に自分の部屋を貸した男が災難に巻き込まれる「寝ていた女」ほか6篇、斬新なトリックが光る傑作推理集。

東野圭吾の初期(90年代)の作品を収めた短編集となります。
どれも日常生活の中で、ふとしたはずみで遭遇してしまった犯罪を描いていますが、どこか意外性のある結末と人間の黒い感情を覗かせているのが共通していると言えましょうか。


「寝ていた女」
実家暮らしの同僚が恋人との逢瀬を楽しみたいということで、一晩有料で部屋を貸すことになった主人公。
ある朝帰ってみると見知らぬ女が一人寝ていた。
泥酔していたために、誰と来たかわからないという。
部屋に女が居座ってしまい、主人公は困ってしまう。
「もう一度コールしてくれ」
強盗に入った先で通報を受けて逃げ出した主人公。警察に追われて付近の家に駆けこむ。
そこは主人公が高校球児だった時、最後の大会で因縁があった元審判が暮らしていた。
「死んだら働けない」
工場の休憩室で男性が鈍器のようなもので頭を殴られて死亡していた。
彼は非常に仕事熱心で深夜にも関わらず産業用ロボットの調整をしていたらしいが…。
「甘いはずなのに」
ハワイに新婚旅行に来た夫婦。
夫は過去に妻と死別した後、しばらく娘と二人で暮らしていたが事故で亡くしていた。
その娘の死に当時交際していた妻が関わっていたのではないかという疑念が今も晴れない。
「結婚報告」
旧友からの結婚報告の手紙に同封されていた写真には彼女とはまるで別の人物が写っていた。
確認すべく新居を訪れるも友人には会えず、夫の態度もどこか怪しかった。
灯台にて」
ちょっと因縁ある幼馴染の友人と旅行に出かけて別行動に出た主人公だが、ある灯台を訪れ管理人の勧めで泊まった際にとんでもない目に遭う。
途中で友人と会い、ふと悪戯心からその灯台に行くことを勧めるのだが…。
コスタリカの雨は冷たい」
野鳥観察が趣味の主人公は海外赴任終了間際に貴重な野鳥が豊富というコスタリカに旅行する。
比較的治安の良いその地でいきなり強盗に遭ってしまうのだが、ひょんなことで盗まれたはずのカメラの電池ケースを見つけて、強盗の正体に疑念を抱く。


表題作は女は見た目じゃわからないという話ですね。それでも騙されてしまうのが男ではありますが。
特別な展開やトリックがあるわけでもなく、それだけの印象でした。
「もう一度コールしてくれ」
高校野球の審判のアウト判定によってその後の人生が転落してしまった男の話ですが、結局自業自得としか言えないような・・・。
「死んだら働けない」
殺害されてしまった係長のような仕事に夢中になると周りが見えなくなる人ってどの会社にも一人くらいいそうですね。
ただし何事もほどほどにしておかないとトラブルを引き起こしかねないという点でよくわかります。
「甘いはずなのに」
ありふれた男女の情のもつれた話かと思わせておいて意外性のある展開。父親の子を亡くしてしまった悔恨と相まって、内容的には一番良かったかな。
夫妻の幸ある再出発を願いたい結末でした。
「結婚報告」はふとした偶然が奇妙なミステリを呼び、そしてヒロインの旺盛な行動力と好奇心によって解決をもたらしたのが印象的でした。
この内容は以前ドラマで見た記憶があったのですが、「甘いはずなのに」と共に東野圭吾ミステリーズとして2012年に放送されたそうです。

灯台にて」は同じように学生時代に一人旅をしていたこともある私にとっても怖いと感じた話。男だからといって油断してはいけません。
主人公と友人との歪んだ関係がなんともいえないですな。
コスタリカの雨は冷たい」はこの中ではちょっと毛色が変わった内容。
珍しく外国が舞台なためか、ストーリーそのものよりも脇役を含めた登場人物の会話がユーモラスで面白かったです。