13期・14冊目 『眠りの森』

眠りの森 (講談社文庫)

眠りの森 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

美貌のバレリーナが男を殺したのは、ほんとうに正当防衛だったのか?完璧な踊りを求めて一途にけいこに励む高柳バレエ団のプリマたち。美女たちの世界に迷い込んだ男は死体になっていた。若き敏腕刑事・加賀恭一郎は浅岡未緒に魅かれ、事件の真相に肉迫する。華やかな舞台の裏の哀しいダンサーの悲恋物語

深夜、有名バレエ団の事務所に男が侵入して、たまたま中にいたバレリーナの女性に襲いかかり、抵抗した彼女が振り回した花瓶によって頭を強打し死亡するという事件が発生しました。
居直り強盗に対する正当防衛ということで簡単に終わるかと思われた事件ですが、死亡した男がなぜバレエ団の事務所に侵入したのか、動機がわからない。
男と付き合いのあった女性によると、そういった犯罪を犯すような人物ではなかったと断言しているが・・・。
仲間が早く解放されることを願いつつ、舞台公演のために厳しい稽古に励むバレエ団の男女たち。
そんな中で今度はバレエ団にとってはなくてはならない振り付け指導の男が座席に座って稽古を見ている最中に突然苦しみだして死亡してしました。
背中に注射針のようなものが刺さって毒物が混入したことで、鑑定の結果、それは濃縮されたニコチンであることがわかりました。
そして次に男性バレエダンサーが自分の水筒の中にニコチンが混入されて、すぐに違和感を感じて吐き出したので命には別条ないものの、数日入院する騒ぎに。
明らかに内部関係者による犯行により、バレエ団の人々は不安と疑心暗鬼に駆られます。警察としても、二つの殺人事件に何らかの繋がりがあるのか。更なる取り調べが続けられ、どうやら数年前に死んだ強盗犯とバレエ団にはニューヨーク留学で過去に繋がりがあって、事件に発展したのではないかと目星をつけたのでした。


発表されたのが90年代ということもあり、加賀恭一郎シリーズとしては初期の作品になりますね。
少し前に読んだ『麒麟の翼』では亡くなった父親の法事が話題に出ていましたが、本作では簡単な会話しかしていなくてもまだ父親が存命で元気な様子がうかがえます。相変わらず結婚する気がなく、見合の話は即刻断っているようで(笑)
ただ、今回は本作に登場するバレリーナの未緒に惹かれていく様子がわかります。
ミステリでは意外な人物が犯人だというオチはよくありますが、捜査する側の恭一郎と惹かれあう彼女が犯罪に関わりがあるんじゃないかという予感が捨てきれなくて・・・。
それでも最後の最後まで、具体的な犯人とその動機はわからなかったですね。
バレエで一流になるために何もかも捨ててバレエ一筋に生きていかなければならない。芸能スポーツではよくある話ですが、それでも人間性を捨てきれないところに悲劇のきっかけが生じたということですね。
かつ、有名バレエ団という閉ざされた集団の中で、特殊な事情の上で成り立った悲劇としてうまくまとめられていたと思います。
特に未緒が時々おかしな様子に見舞われていたことに事件解決のポイントとして気づいた点はさすがでした。