11期・53冊目 『宿命』

宿命 (講談社文庫)

宿命 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごした後、警察官となった。男の前に十年ぶりに現れたのは学生時代ライバルだった男で、奇しくも初恋の女の夫となっていた。刑事と容疑者、幼なじみの二人が宿命の対決を果すとき、余りにも皮肉で感動的な結末が用意される。

大企業であるUR電産の次期社長として決まったばかりの須貝正清が日々の日課である昼のランニングの最中に矢で撃たれて死亡した。
その武器と見られるのは、UR電産の創業者一族である瓜生家の前社長の遺産の一つであった海外土産のボウガン。その矢じりには毒が仕込まれていたのだという。
凶器の存在を知っていた者が限られていることから、内部事情に詳しい人物の犯行として警察は調べるが、主だった者にはアリバイがあってなかなか捜査が進まないのでした。
捜査に加わっていた島津署の刑事・和倉勇作は聞き込みに訪れた際に瓜生家の長男・瓜生晃彦に再会します。
彼とは小学校から高校まで一番をかけて争っていたライバル。しかも肝心なところで負けていた相手。しかも、初恋の相手である美佐子が妻となっていて、心中穏やかならざるのですが、そこをぐっと堪えて職務に精を出します。


東野圭吾の作品としては比較的初期にあたる硬派なサスペンスになっていますね。
2時間サスペンスドラマの原作小説のような印象を受けますが、主人公・勇作の少年時代の憧れの女性の死の謎に始まり、瓜生晃彦という宿命とも言えるライバルの存在。
医者を目指しながら、家庭の事情で断念せざるを得ず、初恋の女性とも別れて警察学校に進んだという人生。
捜査と並行して少しずつ糸がほぐされていくかのように見えてきては、さらに謎が出てくる。
背後に隠されている闇の深さに興味は尽きません。
それぞれのしがらみが一気に冒頭の事件で結びつき、殺人事件の解明と共に長年覆い隠されていた研究の秘密が明かされる。
幼き日に抱え込んだ謎の解明は同時にライバルとの宿縁に辿りついたことを悟る主人公の心境はいかがばかりなものか。
種明かしされてみれば、「なんだ、そんなことだったのか」と思える程度ですが、ここまでストーリーを組み立てたのはさすがとも言えましょう。
ただ、比較的感情移入しやすかった勇作と違って、晃彦の心境が最後の最後までわかりづらかったのは確か。
まぁ、勇作とは正反対に他人に対しては常に壁を作っていた性質を持っていただけに仕方ないのかもしれませんが。