10期・20冊目 『ST 警視庁科学特捜班 赤の調査ファイル』

ST警視庁科学特捜班 赤の調査ファイル (講談社文庫)

ST警視庁科学特捜班 赤の調査ファイル (講談社文庫)

内容紹介
シリーズ最高の感動作
さらば、過去よ――
隠蔽された医療ミスにリーダー赤城が挑む!
大学病院に搬送された男が急死した。医療ミスを訴えたものの民事裁判で敗れた遺族が刑事告訴をしたため、STが捜査を開始する。その大学病院で研修医をしていたSTリーダーの法医学担当・赤城左門は、捜査の過程で、封印していた自らの過去と対峙する――。感動のラストが待つ好評「色シリーズ」第2弾。

今野敏のST(Scientific Taskforce、科学特捜班)シリーズを読んだのはもう十年以上前でした。
シリーズとして着実に続いていることは知ってはいたものの、ドラマにもなっていたんですね。
wikipedia:ST 警視庁科学特捜班
私は初期作品を読んだだけで遠ざかっていたのですが、ふと図書館で見かけて読んでみたくなった次第です。


風邪をこじらせた男性が大学病院にて診察を受けたのですが、処方された薬を服用したところ、熱は下がったがアレルギーが出た上に容体が急変。
救急車で搬送されるもあっという間に死に至ってしまったのでした。
その死に納得のいかない遺族は誤診があったのではないかと病院を訴えたのですが、民事裁判では敗訴。次いで刑事訴訟となり、その治療に齟齬が無かったかSTチームが捜査に入るというのが導入部です。
ここで主導的役割を果たすのがSTリーダーであり法医学担当の赤城左門。
かつて赤城が勤めていたというのが今回告訴された大学病院であり、しかも今回の事件での担当医との因縁があるという過去が明かされます。
そういった事情から赤城が担当することに懸念の声が上がりますが、医療および大学病院がメインのこの事件に対して専門家の赤城は外せないというキャップの判断がされました。
理想の医療の実現のために正義感に燃えていながら同時に対人恐怖症を抱えていた研修医時代の赤城。大学病院という上下関係の厳しい環境にて何があったのか?


素人にとって、誤診を始めとした医療サスペンスというのは身近なようで敷居が高いというか、奥深いものがあります。
そこを赤城左門の過去を絡めて大学病院が抱える医療上の問題をテーマにしながらも、優れたエンターテイメントとして仕上がっているなと思いました。
それでいて個性溢れるSTのメンバーの活躍や似たような問題を抱える警察の事情も浮き彫りになったりして、見どころ満載です。
不満が残る点としては、事件を引き起こすことになった医師の動機が甘いかなぁということ。
テーマがテーマだけにより深く掘り下げれば重厚な内容になったかもしれない。
そういう点で物足りなさが無くもないですが、一気に読むことができるのもシリーズの魅力の一つなんでしょうね。