8期・20冊目 『使命と魂のリミット』

使命と魂のリミット (角川文庫)

使命と魂のリミット (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
心臓外科医を目指す夕紀は、誰にも言えないある目的を胸に秘めていた。その目的を果たすべき日に、手術室を前代未聞の危機が襲う。心の限界に挑む医学サスペンス。

心臓の動脈瘤破裂で父を亡くして以来、医者を目指し、今は研修医として多忙な毎日を送る氷室夕紀。
しかし父の手術の際の執刀医・西園と母が再婚間近と聞き、さほど困難とは思えなかった手術で父が亡くなったことにどうしても疑問が消せない。
そんな彼女が勤務する帝都大学病院には医療ミスを糾弾した脅迫状が届く。


研修医と言えどれっきとした医者でありながら経験不足ゆえ己の未熟さに歯噛み、またプライベートにも複雑な心境を抱える氷室夕紀、そして脅迫状を送った直井譲治は同病院勤務の看護師に近づいて病院内部の様子を聞き出す。
この二人を軸に物語は展開されます。
いったい夕紀の父の手術の際に何があったのか?犯罪をもいとわない譲治の目的は?
事件の捜査に取り掛かった警察の中で、独自の着眼点から不良品による自動車事故について調べ始めた七尾刑事によって、意外な人間関係などの背景が明かされて核心に迫っていきます。
そしてついに実力行使に出た犯行。技術を駆使した犯行に翻弄される警察。
そのあたりの巧みな展開はさすがと言えるでしょう。
医療機器等の専門用語も出てきますが読みやすかったです。
医師や警察官など人の命を扱う職業の使命や責任がテーマになっている割には軽いというか、テンポの速い人間ドラマ仕立てとなっているのですが、そこには本当の意味で性悪な人間が出てこなかったせいかもしれません。
ただ決してぶれずにその信念を全うした登場人物の姿が潔く、読後感は良い作品でした。