TBS「日曜劇場『JIN-仁-』」(完結編)最終話

ついに完結編最終話。原作とは流れは近くとも違いが目立ちましたが、終盤の盛り上がりをうまく繋げて第1期の時よりは納得のいく結末を迎えましたね。
2時間スペシャルということで今回も書くことが多くて記事が大変長くなってしまいました。

西郷隆盛藤本隆宏)を中心とする新政府軍が江戸へ入ったため、対する徳川家に仕えていた旧政府軍(旗本たち)は「彰義隊」を名乗って上野に集まり、反旗を翻す機会を伺っていた。そんな時局の中、橘恭太郎(小出恵介)は勝海舟小日向文世)からフランスへの留学を推薦されるも、坂本龍馬内野聖陽)暗殺のきっかけを作ってしまったこと、そして今後旗本としての自らの進むべき道を悩んでいた。一方、体調が悪化するばかりの南方仁大沢たかお)は、松本良順(奥田達士)から江戸が総攻撃にあった際の医学所への指図を頼まれる。仁は、自らに残された時間を意識し、持っている医学の知識を残さず『仁友堂』の医師たちに引き継ごうとしていた。
そしてついに明日、新政府軍が「彰義隊」を名乗る旧政府軍に攻撃を仕掛けると聞いた恭太郎は、ある決意を下す。それを知った仁、橘咲(綾瀬はるか)らは…。
歴史が大きく渦巻く中、仁を待ち受ける結末とは!?

体調が悪化する中でもう先が長くないことを確信し、仁は持てる知識を仁友堂の面々に伝えようとします。
自分の死後は腑分け(解剖)によって役立てて欲しいと(例によって)明るい表情ですがそれは悲壮な覚悟です。衝撃を受ける中で真っ先に返答したのは咲さんでした。
そのうち仁の頭痛が頻繁になり、それを治せないことに「ヤブ医者」だと自分を責める佐分利ですが、「自分がヤブだと気づいたのなんて6年も前ですよ」と告白する。あとで気づいたのですが、それって恋人である未来(みき)の手術のことですよね・・・。


官軍が江戸に無血入場を果たすも街中ではトラブルが起きたり、不満を抱く家臣らが上野に立て篭もったりと不穏な情勢が描かれます。西郷隆盛に詰問された勝海舟も苦しい立場。
そんな中で橘恭太郎も同僚に彰義隊への参加を誘われる。はっきり言って死亡フラグだからやめとけと言いたいところですが・・・。
仁は松本良順から会津の徳川軍に合流する自分に代わってもしもの時の医学館への指示を依頼されます。
「私では間違うかも」と言うのですが、「では間違ったご指示を」を重ねてお願いされるのです。
死地に赴くであろう松本と仁の表情の違いが顕著だったのですが、別場面での新門辰五郎との会話にあるように、しがらみの少ない南方仁の合理的な判断が良い結果を招くととこの時代のえらい人たちは無意識にわかってしまうのかもしれませんね。


そしてついに戦端が開かれてしまいます。
前夜、咲のことをそろそろ許しては、と母・栄と話していた恭太郎は「考えておきます」との答えで安心してか上野に往ってしまいました。
翌日、恭太郎からの手紙を持って門前に佇む栄の姿が。
手紙によると、最後まで龍馬が死んだことを気にかけていたのですね。
「死に追いやったからこそ生きねばなりませぬ!」と咲は涙ながらに止める栄に対して兄を連れて帰ることを約束します。
矢玉飛び交う戦場に女一人*1向かうなんて無鉄砲すぎるだろ・・・と野暮な考えも浮かびますが、危惧した通りに恭太郎を見つけたと思った途端に左腕に流れ弾に当たってしまいます。
すったもんだの末に恭太郎が咲さんを背負って帰ることになったのはまさに怪我の功名です(この時点では)。


その頃、仁友堂の面々は野戦治療所にて次々と担ぎ込まれる患者相手に懸命の治療を行いっています。
そこに医学館の多紀らが応援に駆けつけるのですが、居合わせた勝海舟は「幕府が彰義隊を認めたことになる」と抗議します。
「それをまとめるのが政(まつりごと)ではないか!」と多紀が一喝。回を追うごとに好人物化してますな(笑)
「馬鹿医者が・・・」と苦笑しながら勝は去っていきました。
そこへ傷を負った咲さんが担ぎこまれますが、仁は手の震えが治まらず、佐分利に任せざるを得ない。麻酔無しにメスを入れられて痛むも「先生のお心に比べれば」と強がるのですが、その強がりが後々大変な結果を招いてしまうのですよね・・・。
手がなければ口を動かせばいいじゃない、と龍馬の声に後押しされて仁は外科が不得意な医学館の医者へ指示を出してゆく。
かつて対立していた本道(医学館)と蘭方医が協力し合って治療する姿は咲をも感動させます。
そんな中で拾った命をまた捨てに戦場に行く者もいて虚しさにとらわれますが、ただひたすら医者として治療に励むのでした。


その後、仁友堂に戻って忙しい日々が続く中でついに咲さんが倒れます。緑濃菌に感染されていて、ペニシリンも効かない。あとは体力による自然回復を願うばかりですが、徐々に悪化していく。
仁に代わって山田純庵が橘家へ病状の報告と見舞いを依頼に行くのですが、栄さんは首を縦に振りません。
なぜなら今までのいきさつから自分が見舞うと咲はもはやこれまでかと気力を失うかもしれない。
「約束通り、自分の足で戻って参りなさい」
母は強し。


仁が咲に付き添っていると、涙がひと筋零れ落ちます。咲「先生がいなくなった夢を見た」と言う。そこで私は安心したと言う咲に問いかけると「未来に帰ったとならば癌は治せる」からと。そんな健気な言葉に思わず仁は咲を抱きしめる。感動的なシーンですが、ここでやっと行動に移せたかと思った人は多いんじゃないでしょうか(笑)
ちょうどその時にタイムスリップ直前の記憶が蘇り、階段で手にしたのが緑濃菌を治すホスミシンの瓶であったことを思い出すのですね。
「必ず戻ってくるから」と慌しく飛び出そうとする仁と呆然と見送る咲。握っていた手が離れるシーンが印象的でしたね。これが終の別れとなることを予想させましたが。
咲を治せる薬がどこかに落ちているかもしれないと総出で探す。仁と恭太郎が初めて出会った場所に行くと、龍馬の声が聞こえます。
「先生はどこからきたんじゃ?」
そこで『JIN-仁-』冒頭の男が倒れていたという錦糸公園のあたりへ向かうと運悪いことに残党狩りの官軍兵士に遭遇してしまう。恭太郎*2が切り結ぶ間に先へ急ぐ仁。
崖を前にして、「戻るぜよ、あん世界へ」と龍馬の声に押されて思い切って落ちていきます。ちょうどその頃、咲と安寿が手を伸ばそうとしていた。なにを掴もうとしてか。


そして現代に戻って自分自身から治療を受けた仁は「戻らなければ」と病床から立ち上がりホスミシンと救急セット、そして胎児型の腫瘍が入った瓶をを手にするのです。そこからはまさにタイムスリップの再現。
しかし過去の仁が同じよう江戸時代へタイムスリップしたのはわかりますが、もう一人の仁である包帯姿の男だけが取り残されてしまったことは・・・?
目覚めると胎児型ではなくただの良性の腫瘍を取り除いたということになっているのですが、そこでは未来(みき)が入院していなかったり、(視聴者視点ですが)「東洋内科」という科があったり、医療費が無料であったりと世界が変わってる。
そこは仁が小説を考えているという設定で同僚に相談すると、世界にはいくつか微妙に違う並行世界(パラレルワールド)が存在していて、タイムスリップによって別世界に入り込んでしまったと説明づけられるのですね。
そのへんは曖昧なままであった原作と違ってドラマの方が親切ではありますね。龍馬の声が聞こえることも似たような症例をあげてきちんと説明されていました。「なるほどー」を連発する仁に同僚は呆れてましたが(笑)


次いで果たして自分が歴史を変えたことになったのか気になって図書館で医療史を調べるとそこにペニシリンのことや仁友堂の面々が記載されていたことを見つけて喜ぶ。
しかし自分の名と咲さんの名はどこにも無い。おやおや・・・?
いてもたってもいられず橘家の屋敷があった辺りを探しに行くと、「橘医院」の看板を見つけます。
さらに通りがかった未来(みき)そっくりの女性に「うちに何かご用ですか?」と聞かれる。
「こちらに橘咲さんというご先祖はおられませんでしたか?」と問いかけて話を聞かせてもらうことになります。まぁちょっとこのへんは都合良く進みすぎる気がしないでもないですが、女性の意味深な表情でいつか仁の訪問があることを予想していたのかと脳内補完。
ここでようやくその後の消息を知ることができるのですね。そして最初から南方仁は存在しなかったとされていることを。
両親亡き後の安寿を養子に迎え、生涯独身を通した咲さんの生涯を知り、感極まった仁が礼を言うと、
「揚げだし豆腐はお好きですか?」
「はい」と答えると「あなたを待っていたような気がする」とある手紙を託されます。
未来もそういう運命めいたものを感じていたのでしょうか。


「○○先生へ」と記された咲さんからの手紙を読む仁。
なぜかと言うと、兄が持ち帰った薬によって完治した後は誰も「先生」の存在を知らず、咲自身でさえ顔も名前も思い出せなくなってしまっているということを。
しかしここには揚げだし豆腐が好物の「先生」と呼ばれた御方がいて、数々の奇跡的な手術を行ったこと。でも決して神ではなく迷い、傷つき心を砕かれてひたすら懸命に治療を行った「仁」の心を持っていたことを。偶然不思議な丸い銅貨を見つけたことで思い出し、この記憶が失われぬうちに筆を取ったことが書かれていました。
そして「橘咲は先生をお慕い申し上げておりました」と結ばれていました。
「私もですよ、咲さん」と時空を超えて気持ちが通い合った瞬間でした。
ドラマでは仁と咲はいったいどうなるのかとやきもきさせられたものですが、普通に結ばれた原作と違って「歴史の修正力」の狭間でぎりぎり通じた想い。切ない演出ですなぁ。
そして運び込まれた橘未来の手術を仁が執ることで幕が下りました。
この世界ではきっと仁が救うことであろうことを信じて。

おまけ:原作とドラマでの最終回の主な相違点

記憶を元に書き出してみます。後で確認して訂正・追記するかもしれません。

  • 橘恭太郎と東修介の生死が入れ替わっているので、南方仁が現代へ戻る際に立ち会う人物も入れ替わっている。またドラマでは三隅俊斎は捕縛されているので、仁らを襲うのは雇われた刺客ではなく偶然残党狩りをしていた官軍兵士となっている。
  • (原作)南方仁は現代と過去の両方に存在。過去の南方仁と橘咲は結婚。(ドラマ)南方仁は過去においては存在しないことになっている。橘咲は生涯独身を貫く。

唯一、咲の記憶の中にあるが、それもいずれ消えていくであろうことが示唆されている。
それに伴い、過去における仁友堂の南方夫妻の功績も無く、橘咲は産科・小児科中心の橘医院を創設する。ホスミシンの投与など、原作における仁の代わりを生き延びた恭太郎が果たしたとも言える。

  • (原作)南方夫妻が養子にするのは喜市。(ドラマ)橘咲が養子にするのは安寿(野風の子)。橘未来によると「両親を亡くした後」と言っているので、ルロン・野風夫妻はフランスに行くことなく亡くなったことにされているらしい。
  • 現代において仁と野風の子孫が出会うのは同じだが、姓がルロンではなくドラマでは養子の関係で橘である。
  • ドラマにおいても仁友堂は存続したが大学病院を要する医療法人として発展しない(?)

原作で仁が現代に戻って手術を受けたのは「仁友堂大学附属病院」*3。ドラマでの病院名については未確認。ちなみにドラマでも本道が東洋内科として現代にも受け継がれることは確認。

*1:足腰が利かなくなった仁に代わって佐分利医師がついていったけど

*2:ここで死ななきゃいいがとちょっと危惧したり

*3:順天堂大学医学部附属順天堂医院がモデル