7期・78冊目 『ZOO 1』

ZOO 1 (集英社文庫)

ZOO 1 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
何なんだこれは!天才・乙一のジャンル分け不能の傑作短編集が「1」、「2」に分かれて、ついに文庫化。双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され…(「カザリとヨーコ」)、謎の犯人に拉致監禁された姉と弟がとった脱出のための手段とは?(「SEVEN ROOMS」)など、本書「1」には映画化された5編をセレクト。文庫版特別付録として、漫画家・古屋兎丸氏との対談も収録。

「カザリとヨーコ」
一卵性双生児として生まれたカザリとヨーコだが、母はカザリだけ溺愛し、ヨーコは虐待される日々。
そんな中でヨーコは迷い犬を見つけた縁でスズキさんという一人暮らしのお年寄と出会い、初めて人の優しさに触れる。
「SEVEN ROOMS」
拉致されて不気味な部屋に閉じ込められた姉弟
部屋には異臭が漂う用水路の溝が部屋の床を横切っている。
体の小さい弟が溝を移動して調べたところ、七つの部屋が連なっていて、それぞれ一人の女性が監禁されており、やがて部屋の並び順に一日一人ずつ殺されては新たに被害者が補充されることを知ってしまう。
「SO-far そ・ふぁー」
アパートで暮らす父と母と「ぼく」。
ソファで親子三人並んで座ってテレビを見るのが幸せのひとときだった。
しかしある日から、父は母を、母は父を死んだものと思い込み、そこにいるのに認識しなくなってしまい、「ぼく」は二人の会話を仲介するようになるが・・・。
「陽だまりの詩」
ある日、彼女は目覚めた。
人類最後の生き残りの彼が病にかかり、残り少ない命の自分を埋葬してもらうために彼女を造ったのだという。
「ZOO」
毎日ポストに入れられる死んだ彼女の写真。いったい誰がそのような真似を?
犯人と恋人を殺された哀れな男との二者を演じる男の心理を描く。


初めて乙一氏の著作を読んでみました。
一風変わった短編集ですが、軽い語り口の割には衝撃的な展開を描く「カザリとヨーコ」と「SEVEN ROOMS」が強く印象に残りましたね。怖いもの見たさ的なぐいぐいと引き込ませる魅力を感じました。
歪な関係ながらもバランスを保っていた双子のカザリとヨーコ、普段喧嘩ばかりしているがごくありふれた「SEVEN ROOMS」の姉弟。どちらも兄弟が登場するのだけど、その異様な境遇の果てに待っている結末が対照的過ぎます。
どこか不思議な印象を受けたのは「SO-far そ・ふぁー」。
最初はオカルト的な内容かと思っていましたが、両親の身勝手さによって嘘が現実に変わってしまうというやや後味悪い結末でした。
「陽だまりの詩」は感情を持つように造られたロボットが身近な死を体験することで、徐々に人間らしい心を育んでゆくというこの中では珍しく温かさを感じる内容。
「ZOO」は愛憎の果てに恋人を殺した犯人の心理とはこのようなものかと思わせるもの。うまくまとまってはいるものの、それまでのストーリーの中ではあまり心には響かなかったですね。
様々なシチュエーションが描かれていて、いずれも心の変容をテーマにしたものが集められていると言えますが、徐々にスケールダウンしていった気がするので順番をもう少し工夫した方が良かったのではと思いますね。