10期・41冊目 『大聖堂(下)』

内容(「BOOK」データベースより)
トムの死後、息子が引き継いだ大聖堂が建築途中で崩れ落ちた。焼失に崩壊…大聖堂は呪われているのか?一方、職人の才能を開花させたトムの弟子のジャックは、ヨーロッパで修行しながら旅浪していた。新しい建築技術を取得した彼は、フィリップと大聖堂を救うべく町へ帰還、物語は感動のクライマックスへ。

死んだトムの跡を継いだ息子アルフレッドの指揮のもとに大聖堂の建設は進められていたのですが、司教を招いた中で屋根が崩落し、またもや犠牲者が出てしまう。
ウィリアム・ハムレイの手勢に襲われて市場を焼き払われても屈しなかった修道院長フィリップも今度ばかりは堪えてしまうのです。
一方でキングスブリッジを出奔したジャックはフランスのサン・ドニ教会での尖塔式建築を見て感銘を受け、大陸で進んだ建築技術を学びながら旅していました。
財産を失い、弟リチャードを養うためもあってアルフレッドと望まぬ結婚をしていたアリエナですが、崩落のあった日に以前ジャックと結ばれた時の子を出産。
エリンからの助言もあって、そのままジャックに会うために旅立ちます。そして遥々スペインでの行き違いを経て、長い月日の末にようやくパリで出会うことができました。
紆余曲折あってフランスで資金と職人を集めることができたジャックは最新の建築技術を用いて父が手がけた大聖堂の建設を継ごうとしたのですが、彼らの行く末にはまだまだ様々な困難が立ちはだかるのでした。


ついに最終巻です。
大聖堂建築をめぐる人間模様、特にキングスブリッジ修道院側と長年に渡って確執が続くウォールラン司教やウィリアム・ハムレイとの対立も佳境を迎えていきますね。
再びキングスブリッジを襲わんとしたウィリアムの軍勢を急ごしらえの壁や策で撃退したり、逆にリチャードに率いられた森のアウトロー集団がシャーリング伯領を荒らしまわったり。また、イングランド中を襲った飢饉によって経済的にも苦しくなり、職人たちの雇用や昇給支払に関して揉めたこともあって、一転してシャーリング伯側についたアルフレッドによって一斉に引き抜かれてしまったり。
イングランド王家継承戦争の和解に乗じて、上巻でハムレイ家が行ったのと同じ手口で城を見事奪回したアリエナ・リチャードの姉弟ですが、ウォールランはウィリアムを州長官に推して対抗する。
どちらかというと権威と武力という面で有利に立つ敵側の攻勢を何とか知恵を絞って防いでいるという印象で、その状況も二転三転してつい惹きこまれてしまいます。
さらに置き去りにされた赤子(ジョナサン)の出生の秘密、処刑された男性(すでにジャックの父親と判明)に関する陰謀など全てが明かされてゆくさまはなかなか読み応えがありました。


始めこそなかなか進まなかったのですが、いったんハマるとどっぷりと中世欧州の世界観にハマってしまい、読み終えてしまったのがもったいないというか、その余韻にひたることができました。
やはり傑作との評判は間違いなかったです。
ただ一つ気になったといえば、トムの妻子の中で一人だけマーサの消息がふっつりと消えてしまったことですね。ジョナサン誕生時に立ち会った一人だったはずなので、当然出てくると思っていたのに。
それから建物の説明の場面ではこちらの理解不足もあって、ついていけなかったのが悔しいです。
そういう面では映像化されたものを見た方がその素晴らしさを堪能できる気がしますね。