7期・49冊目 『赤々煉恋』

赤々煉恋 (創元推理文庫)

赤々煉恋 (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
人の世はなんとおぞましく、美しいのだろう―。若く美しいまま亡くなった妹の思い出を残したいと、凄腕だという遺体専門のカメラマンに写真撮影を依頼した早苗。ところが…。初恋、純愛、そして日常と非日常への切望の数々。赤々とした、炎のような何かに身を焦がす者たちの行く末を、切ない余韻の残る筆致で巧みに描く。直木賞作家・朱川湊人の真骨頂を、連作集であなたに。

続けて朱川湊人の本を読んでみたのですけど、『花まんま』とはガラっと雰囲気が変わります。
変わった性癖というか、人並みでは満足できない偏った愛情をを持ってしまった変人たちの物語とでもいいましょうか。そういう趣向が嫌いな人には受け付けない内容でしょう。
個人的には、初めて読んだ『白い部屋で月の歌を』や本作のような幻想ホラーが本領の作家なのではないかと思いました。


「死体写真師」
若くして病死した妹のその美しい姿のままの写真を残しておきたいと望む姉。恋人がその願いに叶う葬儀社を探し出してきて、慎ましやかながらも満足のいく葬儀が終わった。
しかし密かな疑惑が。「妹は本当に火葬されたのだろうか?」
あれよあれよのうちに急展開でヒロインが犠牲になっただけの救いが無い結末。
これだけだと○○愛好者の気色悪さだけが残ってしまうので、キーとなるカメラマンや写真に閉じ込められた魂についてなど、もう少し見せ場が欲しかったです。


「レイニー・エレーン」
主人公は出会い系サイトで知り合った女性から雨の日に出没する「レイニー・エレーン」の話を聞き、大学の同級生のことを思い出す。彼女は昼は一流企業の有能なOLとして働き、夜は渋谷の街をさまよって、一晩のうちに何人もの男の相手をしていた揚句に無残な絞殺死体として発見されたのだった。
「東電OL殺人事件」がモチーフになっているようです。
すでにこの世のものでない存在になっても恋心を抱いていたらこういう結末に辿り着くのかと思うと切ないような恐ろしいような気がしますね。


「アタシの、いちばん、ほしいもの」
飛び降り自殺して以来、あの世にも行けずに街を彷徨うアタシ。
あるマンションの非常階段わきにある植え込みの何も植えられていない場所がアタシのお気に入り。なぜなら、そこがアタシが落ちて死んだ場所だから。
アタシにだけ見える、人を不幸に突き落とす虫人間。
いちばん欲しくて、やっと叶えられたと思った笑顔さえ虫人間によって奪われた。
全編に漂う無力感がいろんな意味でたまらない。本当に自殺によってこの世から去った人がアタシのようになっていたら、それはそれで悲しいですけどね。


「私はフランセス」
宗教団体に属する家の事情で厳しく孤独な生活を送るわたしには盗癖があった。
結果的にそのために16の時に家から追い出され、まともな職も続かない。
体を売るしかない生活の中で出会った心優しきMさんに救われたが、彼も誰にも言えない秘密があった。
中学二年生の時に同じクラスだっただけのあなたに宛てた手紙形式。なぜそのような手紙を送ったのかは最後に明らかにされます。
どん底から結果的にパートナーに恵まれて本人たちの望む愛の形も手に入れて、本作の中では最高のハッピーエンドと言えるでしょう。うん、そういうことにしておきましょう。


「いつか、静かの海に」
母親に捨てられ、暴力をふるう父親との暮らしの中で、唯一自由で気晴らしになるのは(父親が仕事に出る)夜だった。
そんな中、夜の公園で出会った曽根さんとお姫さま。
なんと曽根さんは元は鉱物だったお姫さまを人間の姿になるまで月の光を集めた「月の水」で育てていたのだった。
僕だけの秘密の宝物的なお話。昔あったお姫様を育てるゲームを思い出して、なんとなく曽根さんの気持ちがわかる気がするのです。
ただしその代償はとてつもなく大きかったわけで、そこが著者らしいかなぁと思います。