12期・17冊目 『わくらば追慕抄』

内容(「BOOK」データベースより)

人や物の「記憶」を読み取れる不思議な力をもった姉・鈴音と、お転婆で姉想いの妹・ワッコ。固い絆で結ばれた2人の前に現れた謎の女は、鈴音と同じ力を悪用して他人の過去を暴き立てていた。女の名は御堂吹雪―その冷たい怒りと霜しみに満ちたまなざしが鈴音に向けられるとき、何かが起こる…。昭和30年代を舞台に、人の優しさと生きる哀しみをノスタルジックに描く“昭和事件簿”「わくらば」シリーズ第2弾。

『わくらば日記』の続編となります。
小学生だったワッコ(和歌子)は中学生から高校生となり、姉の鈴音は十代後半から二十歳くらいでしょうか。
時代は昭和34年から37年にかけての姉妹が関わる5編を収録。
当時の有名人物や現実に起こった事件(洞爺丸沈没)、時代背景が具体的に書かれているので、当時を知る、特に姉妹と近い世代にとってはたまらないでしょうね。
私はまだ生まれていない時代ですが、昭和の懐かしき雰囲気はよく伝わってきます。
昭和31年に「もはや「戦後」ではない」という言葉が流行語になり、経済的には高度成長時代に入るのですが、本作に出てきたパン屋のおじさん*1が従軍兵士だったというように普通に復員して働く大人がいて、少し前まで街角に傷痍軍人がいたというように戦争の影は確実に残っていたのでしょう。


本作ではいきなりですが、鈴音と同じように人や物からその過去を読み取ることができる女性が登場。
しかも力を己のために使うことに躊躇いもなく、その結果相手が不幸になっても気にしないという鈴音とは真逆の存在。
そればかりでなく、鈴音の過去を知っている模様です。
結果的に最初と最後の方でしか出てこないのですが、どうも鈴音自身が忘れている彼女の出生の秘密を知っていたり恨みを持っているのですが、そういった事情は謎のまま。
続編で詳しく明かされるのかなと期待するのですが。


茜や秦野巡査といった初期に関わりがあった人々も紆余曲折あって、いかにも続編らしかったです。
また、今回は親子関係に関するエピソードが目立ちましたね。特に鈴音の能力を恐れるようになった茜が新興宗教にハマって姉妹が様子見に行くことになったエピソードでは、心臓に病を持った赤ん坊を持つ夫婦が登場。
そこで赤ん坊の記憶を見たシーンは思わず目頭が熱くなってしまいました。
鈴音が27歳という若さで亡くなることが確定しているので、時系列的に次が最後で3部作となるのでしょうか。
続編が読みたいのと同時に非常に魅力的な彼女の死の訪れを読むのが辛いという気持ちもありますね。

*1:普通に店舗かと思ったら、リヤカーで売り歩くパン屋なんて全然知らなかった