6期・37冊目 『異邦人-fusion』

異邦人 fusion (集英社文庫)

異邦人 fusion (集英社文庫)

出版社 / 著者からの内容紹介
タイムスリップした私は、父を救えるか!
23年前の夏、父は殺された。犯人は不明。父が殺される数日前にタイムスリップしてしまった私は、父を救うことができるのか? 親子の愛、姉弟の愛を切なく描く長篇ミステリ。

40歳の主人公は実家への帰郷した際に23年前、自分が17歳であった頃にタイムスリップする。それはちょうど父が殺され犯人は行方不明のままの事件の起こる数日前であった。
その事件をきっかけに敬愛する姉を始め家族の運命が劇的に変わったことを知る主人公はレズビアンであった姉の恋人・季李子の協力を得て事件を防ぐべく真相に迫るわけです。
タイムスリップした主人公=異邦人がその時代に関わることについて様々な制約がある。
今まで読んだ著者の作品に共通してSF的設定をおきながらもその状況が細かく書かれていて、そういった中で発生したミステリを紐解いていくというのが特徴でもあります。
今回は逆にそのために早々に犯人がわかってしまうのですが。


何もかも23年前の時代に戻っている中で故郷に帰る。なにやら幻想的な雰囲気も感じますが、前半は主人公の姉に対する屈折した想いと悔恨が入り混じって重苦しいです。
それが一変するのは姉のアパートを訪ねた先で、季李子に出会ってからですね。
14歳の割には非常に大人びた彼女の存在感が光ります。もしかしたら23年後の彼女が憑依しているのではないかと主人公は妄想するのですが、そう言われても不思議ではありません。いやそもそもタイムスリップする直前に主人公は姉から作家となった季李子が著した作品を買ってほしいと頼まれてそれを読んだことが大きな役割を果たすわけで、このタイムスリップには偶然というより必然性を感じさせる点があったりします。
そして主人公は季李子の読み通り、父親に再会を果たします。家族の歴史を変えることを確信して。
過去に干渉した結果、現代に戻るとハッピーエンドが待ち受けていたというのはやっぱりわかっていてもタイムスリップものの魅力ですね。