6期・5冊目 『泣きの銀次』

泣きの銀次 (講談社文庫)

泣きの銀次 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
誰がお菊を殺したんでェ。最愛の妹の命を奪った下手人を追って、大店の若旦那の地位を捨てた、人呼んで「泣きの銀次」。若き岡っ引きは、物言わぬ死体の声を聞いて涙する。お侠な娘、お芳の健気な想いを背に受けて、めざす敵は果たして討てるのか?鮮やかな筆が冴えわたる女流時代小説作家の人情捕物帳。

また宇江佐真理の本を読んでみたいと思って本屋でなにげなく手にしたのがこちら。
犯罪者を追う現代の刑事と言うべき江戸の岡っ引きが主人公というのはありふれていますが、仏を前にすると泣きが入ってしまうというのが一風変わっていますね。
泣きの銀次(略して「泣き銀」)というちょっとしまらない渾名をもらってしまい、本人も上司である同心もほとほと困っている様子が伺えるのですが、実際は勘の鋭さと足の速さでなかなか有能な人物であることがわかります。
そんな彼が岡っ引きになるきっかけである妹の死を含め数々の疑惑を持ちながら決定的証拠がなく今までお縄につけることができずにいた儒学者・叶鉄斎に関する捕り物がメイン。


銀次を中心に描く江戸の人々の人情はとても温かで良い雰囲気なのですが、事件ものとしては猟奇的で悲惨な内容をちらつかせていて、その対比が意外でした。読みなれていないせいかもしれないですけど、人情ものものとサイコキラー*1ってあんまり相性良くないような気がするのは私だけでしょうか?
やはり長屋や銭湯を始めとする日常描写は読んでいて目に浮かぶようで秀逸。ちょうど夏から始まって正月を過ぎるまでの季節感もよく出ています。
それに事件の真相に迫る過程で、銀次を巡る恋や友情も関連して動きがあり、気になってしまいますね。
最後はひとまずハッピーエンドで一安心。だけど二足のわらじとなった銀次、そしてお芳との仲は今後どうなるのか?続編が出ているようなので読んでみたいと思います。

*1:人格障害もしくはサイコパスのため猟奇殺人を繰り返す殺人犯