10期・24冊目 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

内容(「BOOK」データベースより)
夢をとるか、愛をとるか。現実をとるか、理想をとるか。人情をとるか、道理をとるか。家族をとるか、将来をとるか。野望をとるか、幸せをとるか。あらゆる悩みの相談に乗る、不思議な雑貨店。しかしその正体は…。物語が完結するとき、人知を超えた真実が明らかになる。

空き巣を働いてきたばかりの三人組は一時的な隠れ家として、ある廃屋に忍び込む。
看板は今は薄れてよく読めないが、雑貨店だったらしい。
かつて店主が存命中に悩み相談を受け付けていて、どんなくだらない相談にも真剣に回答する姿勢が評判となって週刊誌にも取り上げられたことがあるという。
その店の名は「ナミヤ雑貨店」。
そして今夜、新たなが悩み相談が店に届く。
店に居合わせた三人は放っておけずに回答を書いて昔のように裏の牛乳箱に入れておいたのですが、なぜかすぐに次の手紙が届いたのです。
相談者との何度かのやりとりで、どうやら店の中と外では時間の流れに大きなズレがあるらしい。
こうして不本意ながら、時間を超えてナミヤ雑貨店に届く悩み相談を受けることになるのでした。


時間を超えた手紙のやり取りが相談者の人生に影響してゆくさまを描いた連作集となっています。
三人組は相談者との間に三十数年の隔たりがあることに気づき、未来を知っていることのメリットを生かそうとするのですが、どうやって相談者に信じてもらうかの歯がゆさがあったりするんですね。
だけど関わった以上はどうにか相談者の役に立ちたいという真摯さが伝わってきます。
夢であったオリンピック出場のために練習に専念するか、それとも病魔に冒され死が迫った恋人の最後を看取るか?
父が倒れて実家(魚屋)の存続が危うい中で、このまま音楽のプロの道を歩むべきか諦めるべきか?
いち早く経済的自立と養親への恩返しのため、しがないOLから水商売のアルバイトで知り合った経営者の愛人となって援助を受けるべきか?
一つ一つは独立した相談者のエピソードがナミヤ雑貨店とそれぞれが深く関係する児童養護施設・丸光園を通じて繋がってゆく。
そうしたストーリー構成はさすがに巧みで惹きこまれていきますね。
そして今まで相談を受けていた三人組に対して、過去から思いもよらない回答が届いたラスト。
たまにはこういう心温まるファンタジックなストーリーもいいものだなと思えました。