フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫 SF ソ 1-12) (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: ロバート・J・ソウヤー,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/01/07
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
全世界の人びとが自分の未来をかいま見たら、なにが起こるのか?2009年、ヨーロッパ素粒子研究所の科学者ロイドとテオは、ヒッグス粒子を発見すべく大規模な実験をおこなった。ところが、実験は失敗におわり、そのうえ、数十億の人びとの意識が数分間だけ21年後の未来に飛んでしまった!人びとは、自分が見た未来をもとに行動を起こすが、はたして未来は変更可能なのか…ソウヤーが時間テーマに大胆に挑戦する問題作。
タイトルであるフラッシュフォワードとは、フラッシュバック*1をもじった造語だそうで、作品内では時間転移とも表現されています。
別に体ごと転移するのではなく、2分弱という短い時間といえど、夢とは違い自分自身に乗り移ったかのような状態で鮮明に21年後の視覚を得るという特殊な経験、それも世界規模というスケールの大きさで描かれます。もっとも実験が行われていたのがヨーロッパ時間の夕方だったために、地球の反対側であるアジアを中心とする東半球ではほとんどの人が眠りについていて経験できなかったそうですが。
それに加えてフラッシュフォワードの時間は人々はまったく意識を失っていたために、倒れたり火傷といった比較的軽めの事故から航空機の墜落など命に関わる被害が多発。主要人物であるミチコ・コムラの前夫との娘が交通事故で無くなるという悲劇が起きて、婚約者であり実験のリーダーであったロイド・シムコーの仲にも影を落とします。
当のロイドにしてもフラッシュフォワードで見たのは別の女性と寝室で親しくしている様子であるゆえ、今考えている結婚がいずれ破局するのではないかという恐れ*2を抱いてしまうという、未来を知ることは決して良いことばかりでもないってわけですね。
それにしても21年という年月は長く、例えば30〜40代の人がなんの予告も無しに50〜60代になっている自分になったとしても簡単に受け入れられるものではありません。
人は日々重ねていった結果としてちょっとしたタイミングで老いというものを感じるものですが、一瞬にして体験させられるのは残酷でもあります。中には幸せな未来を感じることができた人もいますが、作品内で登場する人々はまさに悲喜こもごもです。
一番問題なのがヴィジョンを見ることができなかった人。ロイドの同僚であるテオはやがて自分が殺される運命であることを知ってしまう。
果たして知ってしまった未来は変えることができるのか?
未来を垣間見ることにより、努力は報われないと絶望して自殺してしまう人もいる中、未来は変えられないという持論を持ちながらもミチコとの愛情の狭間で悩むロイド、そしてなんとしても死ぬ運命を変えようとするテオ、この二人の思いと行動が重要なポイントとなっていて、やがて訪れる未来も対照的とも言えます。
フラッシュフォワードが発生してしまった原因究明についても多くページが割かれていて、専門用語が多用されているためにそちらが苦手な私はついていくのが大変ではありました(笑)
ただ、人々のヴィジョンを集めて描き出された未来予想の姿が見所でもありましたね。SF作家の描く未来予想図は意外と当たったりするので結構気になったりするものなのです。
また、科学的意識の違いから来る世間と科学者の意識のズレとか、科学者に対してあまりに俗物的な疑問ばかりぶつけるマスコミといった描写にはニヤリとさせられます。