4期・27,28冊目 『プロテウス・オペレーション(上・下巻)』

プロテウス・オペレーション〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

プロテウス・オペレーション〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

プロテウス・オペレーション〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

プロテウス・オペレーション〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

内容(「BOOK」データベースより)
1974年、世界はかつてない暗黒時代を迎えていた。第二次大戦で圧倒的勝利をおさめたナチス・ドイツが、ヨーロッパはおろかアジアやアフリカ、さらには南アメリカまで支配していたのだ。ナチスの魔手は次第にアメリカ合衆国へと伸び、ふたたび戦争が起こるのは必至だった。そのアメリカに唯一残された最後の希望が《プロテウス作戦》だ。―過去の世界に選りすぐりの工作隊を送りこみ、歴史の進路をねじ曲げて、いち早くナチスの野望を叩きつぶすのだ!かくして《プロテウス部隊》は勇躍時間の流れに飛びこんだが…。人気絶頂のホーガンが時間テーマに挑んだ雄渾のSF大作!

第二次世界大戦で枢軸側が勝利を収めた世界が舞台と言えば、『高い城の男』に続いて2作目。日本視点で言えば勝ち組なわけでここから主役を変えた新たな戦いが始まるみたいな話もかつてありましたが、アメリカにとっては充分ディストピアな設定なんでしょうね。
本作において、アメリカは中立を固持して参戦せず*1ユーラシア大陸とアフリカ大陸を呑み込んだナチス(と大日本帝国)の魔手は南米へも達し、1974年においてアメリカ本土への侵攻は時間の問題と見られているところ。
そこで祖国を救うべく、開発したばかりの時間転移マシンによって選りすぐりの専門家による特殊チームが過去に飛び込んで歴史改変を試みるというストーリー。


あらすじだけ見ると、ナチスを史実よりも強大な悪者にしたてて、世界を救う自由民主アメリカ万歳かよ、っていうと確かにそういう視点はあるのですが、読んでみればそんな単純な話ではないのですよこれが。タイムトラベルやパラレルワールドの薀蓄がふんだんに盛り込まれ、SFとしても世界史ものとしてもとても奥が深い作品だと思います。


プロテウス部隊が1939年の世界に行ってからすぐに歴史が変わり始めるのかと思いきや、一度傾きかけた世界の流れを変えるのはそう簡単ではなくて、前半部分が長く感じて多少イライラもさせられますが、第一線から身を引いていたチャーチルがイギリス政界へ復帰し、アメリカではアインシュタインフェルミなどの高名な科学者の知己を得て*2ルーズベルト大統領との対面が叶って、と少しずつ英米の協力体制が結ばれつつあるのです。そして変わり始めた歴史の行く先は・・・、それ以上はネタばれになってしまうのですが、半分くらいでその先の歴史的展開は読めてしまいました。


なんだかんだ言っても、ドイツの中心部にあるもう一つの転移装置がある秘密基地への潜入破壊工作、そしてなぜか未来に飛ばされてしまったプロテウス部隊がもう一人の自分と協力して戦う後半は緊迫したアクションとして目が離せない展開となります。
最後は、個性あふれる隊員たちがいくつかの時代を経験した上で、自分がどう生きていくのか答えを見つけるまでの過程がとても良かったですね。

*1:フィリピンは日本に併合されたとの記述はあったけれど、その時に本格的な戦争とならずに局地戦で終わったのだろうか?

*2:そこには実在のあるSF作家志望の学生が関係していたり