5期・67冊目 『ふたつの東京物語』

二つの東京物語

二つの東京物語

内容(「BOOK」データベースより)
彼らの留学体験は三者三様であったが、いずれも単純な欧米礼賛者にはならなかった。ヨーロッパで彼らが見たのは、近代文明の輝かしい成果と共に、十九世紀末において露わになってきた社会的な矛盾や、人々の内面にひそむ不安だったからである。だから、彼らは無批判に近代化を推進するのではなく、むしろ欧米で顕在化しているさまざまの課題を解決する形で東京の都市計画を行うべきことを、文学を通じて訴えようとした。


第1章 『舞姫』の誕生―鴎外;
第2章 霧黄なる都市―漱石
第3章 都会の憂愁―荷風
終章 漱石たちの東京

明治維新後、当時ふんだんに残っていた江戸の街並みにも近代化の流れは及び、近代都市としての東京の都市計画としてあがってくるのですが、まずはモデルとなるべき都市の選定が始まるわけです。
ドイツ・ベルリン
イギリス・ロンドン
フランス・パリ


日本の首都のお手本となるにはどの都市がふさわしいか?
それぞれの都市の特徴に各国の国柄なども含めてその経過は興味深いもの。そこに明治の文豪として名高い3人がそれぞれの留学先で見聞した事実をもとにここまで深く考え、積極的に意見を述べていたとは知りませんでした。
よくある西洋かぶれのように無批判に真似しようというのではなく、その都市が持つ特徴が果たして東京にマッチするかどうか、真剣に考察しているところがなかなか面白い。
いくら都市としての近代化が進んでいるとしても、良いことばかりではないのは現代に生きる我々はわかっているのですが、すでにこの時代でも顕在化しつつある光と影の部分をその感受性豊かな目で見、そして書き残されているんですね。
例えば下町に関する態度においても、それぞれの出身地による影響や世代の違いなのか、微妙に温度差が感じられますね。。
それでも3人に共通するのは、都市とは建物や道路など作られたものだけではなく、山の手から下町まで多くの人々によって構成されるもの。そういった人々の居住環境まで考慮しなければならないと主張しているのは現代にも通じる部分がありますね。
しかし当時の世界情勢や予算の都合により、理想とは程遠い都市化が進められたのは事実。
正岡子規が想像した400年後の都市がわずか100年ほどで実現されてしまったかのような今日の東京。都市と人のあり方について考えさせられる内容でした。